劇場公開日 2020年7月17日

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「冷静沈着に、叙情性を抑えて人間や組織を見つめるフランソワ・オゾンの演出が冴えわたる」グレース・オブ・ゴッド 告発の時 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0冷静沈着に、叙情性を抑えて人間や組織を見つめるフランソワ・オゾンの演出が冴えわたる

2020年7月29日
PCから投稿

神の恩寵と題されたこの映画は、人々を救うはずの信仰を傘に、その言葉とは天と地ほどかけ離れた行為が行われていた実態を告発するヒューマンドラマである。オゾン監督は叙情的な音楽や演出を抑え、あえて冷静沈着なタッチで状況描写を重ねていく。一つ特徴的なのは、数十年を経て対峙する神父が、決してわかりやすい悪役然として描かれないこと。また、教会組織も真相解明のために力を尽くしているように見える。だが結果として事態は進展せず、表向きには全くの無風のまま。かくも非を認めない組織のあり方が被害者の苦しみを悪化させる一方で、告発者たちが自らの手で立ち上げ、勇気と使命感を強固に連帯させていくのもまた組織の力なのだ。それらを構成する告発者3人の生い立ちや生き様を群像劇タッチで描き出し、彼らが合流していくダイナミズムを添える筆致が秀逸。今なお係争中の題材でありながら、本作には揺るぎない視座で全てを見渡す風格を感じる。

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牛津厚信