「神父による性的児童虐待事件を被害者側から描く力作」グレース・オブ・ゴッド 告発の時 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
神父による性的児童虐待事件を被害者側から描く力作
仏国リヨンで妻と5人の子どもたちと暮らす金融マンのアレクサンドル(メルヴィル・プポー)。
敬虔なカトリック教徒の彼は、少年期にひとりの神父から静的虐待を受けていた。
そして、こともあろうか、件の神父プレナが、いまも子どもたちを教えていることを知る。
教会を通じて対面したプレナ神父は、アレクサンドルへの性的虐待の事実は認めたものの謝罪の言葉はなく、神父の上位者である枢機卿とも面談するが教会側の態度は煮え切らない。
思い余ったアレクサンドルは、プレナ神父を告発するが・・・
といったところからはじまる物語で、フランス中を震撼させた「プレナ神父事件」と名で知られるカトリック教会の児童への性的虐待事件を描いています。
丁々発止の裁判劇を期待していたが、本事件、現在も係争中というで、そのような場面はありません。
また、メルヴィル・プポーが演じるアレクサンドルを中心に映画が進展するのかとも思っていましたが、その後、フランソワ(ドゥニ・メノーシェ)、エマニュエル(スワン・アルロー)と別のふたりの被害者の物語へと引き継がれて、映画は多層構造を持っていきます。
この構造は、序破急の三部構成といえるでしょう。
序にあたるアレクサンドルの部で、事件を明るみに出し、
破にあたるフランソワの部では、被害者の会が結成されます。
当初、温和で大人しい人物にみえたフランソワが、会のリーダーになっていく過程で、過激で攻撃的な面を表に出していくあたりも興深いです。
急にあたるエマニュエルの部では、事件が明るみに出、会が活動する中で、救われ、新しい人生が始まろうとする様子も描かれます。
そして、特筆すべきは、アレクサンドルの立ち位置で、事件を明るみに出し、教会を糾弾するもの、カトリックへの信仰心は喪いません。
教会と信仰は別、というあたりが興味深いです。
実話を基にした社会派ドラマということで、フランソワ・オゾン監督の演出も正攻法なのですが、アレクサンドルの部は、彼と教会との間でやり取りされるメールをモノローグとして用い、書簡小説のように演出するあたりは、やはり非凡といえるでしょう。
それにしても、神父による児童性的虐待・・・
被害者のトラウマ、PTSDが凄まじいことが、この映画で伺えます。
本当にひどい・・・
虐待の加害者プレナも酷いのですが、それを知っていながら隠蔽し続けた教会組織の方が、より罪が重いと感じました。
なお、この事件が、『2人のローマ教皇』で描かれた、ベネディクト教皇からフランシスコ教皇に代わったきっかけになった事件ですね。