「【"沈黙の掟" 強大な権力を持つ"組織"が、長年に亘り隠蔽して来た事に戦慄する作品。】」グレース・オブ・ゴッド 告発の時 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【"沈黙の掟" 強大な権力を持つ"組織"が、長年に亘り隠蔽して来た事に戦慄する作品。】
- フランソワ・オゾン監督作品はストーリー展開が粗い事がある。
が今作品は、カトリック教会の小児性愛者、プレナ神父が幼き子供達へ長年に亘り、性的虐待を行った事実とそれを隠蔽し続けたバルバラン枢機卿及び関係者を大人になった被害者達が、苦悩しながらも糾弾する過程を丹念に描いている。
又、自己浄化機能を失っているカトリック教会自体も糾弾している作品である。
だが、カトリック教会の存在を否定するのではなく、教会を正しい”組織”として再生させたいという思いも汲み取れる作品である。
作品は3人の被害者の苦悩しながらも教会を告訴する過程を、リレー形式で描く。-
1.長年、幼き日々の哀しきトラウマに苦しんでいたアレクサンドラは、プレナ神父が赦しの言葉を告げなかった事と教会側の対応の遅さで重い腰を上げる。
-赦しを請わない彼の姿が、どこかの国の愚かしき組織とダブって見える・・。
"カトリック教会の神父の問題を解決する"という立場の老齢の女性の解決方法にも、脳内で”それで、終わりか!”と激しく突っ込む。-
2.被害者団体を立ち上げるフランソワも幼き頃の哀しい想い出が忘れられない。
-両親が信仰するカトリックの神父から性虐待を受けたら、激しいトラウマになるだろうし、両親に訴えても相手にされなければ・・。心の傷はいかほどのものだろう。-
3.エマニュエルは現在も、家族も持てず、まともな仕事にも付けない・・。ストレスが溜まると、激しく痙攣し、失神してしまう・・。父親とは、幼き日に実情を訴えたが、軽くあしらわれた事で不和状態。救いは母親が、且つてキチンと息子に寄り添わなかった事を深く後悔して、彼らの行動を支援する姿である。
-そんな彼らが意見や立場の違いを乗り越え、結束して行く様は勇気付けられる。
が、過去の出来事による、両親との不和、心に負った深い傷はそんなに簡単には癒されない・・-
-カトリック教会の社会的位置付けが絶対的な影響力を持つ風土では、あのような出来事は、”あってはならない”衝撃的な出来事なのだろう・・。
そうでなければ、アレクサンドラが最初に告訴してから、プレナ神父への裁きの時間の長さが理解出来ない。しかも、それはまだ、問題の端緒である。-
<そんな彼らが、幼き日のトラウマを乗り越えようとし、少しでも前に進もうとする姿が心に沁みると共に、"隠蔽体質"はどこの国、組織にでもあるのだなあ、と哀しい気持ちになってしまった作品。>
■蛇足
ジャーナリストサイドから、アメリカのカトリック教会の同様の事件を描いた作品に「スポットライト 世紀のスクープ」があります・・。