「タイトルなし」ベン・イズ・バック もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
タイトルなし
①かくも愚かしくも心打たれる息子への母の強き愛。②と、観た直後は映画の謳い文句によく使われるような内容のない1文で終わらせてしまったが、いまこの映画を思い出すといつも一番先に鮮明に浮かんでくるのが次のシーン。③ジュリア・ロバーツ演じるベンの母親が帰ってきたベンを連れて近郊のショッピングモールに出掛けた際、ベンがハイスクール時代に大怪我をした時の担当医夫妻と偶々邂逅する。担当医は今や痴呆症になり夫人の介護が無ければ外出出来ないし、ベン母子の顔も思い出せない状態。夫婦一緒の時は普通に賑やかに社交辞令を交わしていた母親だが、夫人の方が少し席を外した途端、『あの時アンタはあの鎮痛剤には常習性は無いと言ったわね。でもおかけでベンは薬物中毒になってしまったわ。地獄に堕ちろ!(こんな台詞だったと思う)』と罵る。こんなシーンのある日本映画は観たことがなかったので、ちょっとビックリした。日本文化には「水に流す」という文化思想が根底に有るせいか、また相手は既に痴呆症になっているので、「そんな相手に言わなくても」とか「今さら言っても仕方がないのに」とか言いそうなところだが、母親は躊躇いもなく呪詛の言葉を投げつけた。母親のベンへの愛情の裏返しを表現したシーンではもちろんあるが、『忘れない』ことに対する欧米文化(だけではないだろうけど)のこだわりを見た気がした。アウシュヴィッツのことをいつまでも風化させないようにということは理解できても、アメリカ人がパールハーバーのことをいつまでも忘れないことがなかなか理解出来なかったが、根底に流れる文化思想に違いがあるわけだ。逆に、一日本人として日本人は『忘れすぎ』だと思うこともあります。