「一夜に凝縮された、罪と過去と歴史と覚悟」ベン・イズ・バック 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
一夜に凝縮された、罪と過去と歴史と覚悟
ドラッグ依存症の息子とその親の物語というと、ちょうど同時期公開の「ビューティフル・ボーイ」を思い出す。主題は近しいものの、それぞれに表現方法が違っていて面白い。
「ビューティフル・ボーイ」はドラッグ依存になってしまった息子とその親の姿を長いスパンで見つめながら、家族関係の変化やドラッグから更生していく過程の苦難などを客観的に(やや皮肉っぽく言えば)教科書のように描いていた。それに対し「ベン・イズ・バック」はもっと主観的かつ感情的な描き方がされており、物語もクリスマス前夜という短い期間に限定。その一晩の出来事だけで、それまでの家族関係の変化や、息子が犯した過去の罪や呪縛のようなものを表現していく手法だ。個人的に「ベン・イズ・バック」、かなり面白く興味深く観させていただいたし、最後の最後までベンを追い続ける母の悲壮な覚悟に、陳腐な表現だが「手に汗を握る」思いだった。
内容がどこまでリアルかどうかというのは私には分からないけれど、少なくとも映画の中にちゃんとドラマが存在していて、登場人物それぞれの感情にリアリティというか説得力があったと思うし、ドラッグが平凡な家庭を簡単に壊し、当たり前の生活を奪い、抜け出すことがいかに困難かというのを、教科書としてではなくリアルな感情として受け取ることが出来たのがとても良かったなと思う。
それにこの映画に関して言えば、もうジュリア・ロバーツの凄みがすべてだと言ってもいいかもしれない。一度は過ぎ去ったかに見えた女優としてのピークをここに来て再び呼び戻している感。アイドル的な人気女優という肩書から、最近は母性を勝ち得て完全に新たな円熟期を迎えている。母の母たる深みや度量を一手に背負った名演。かと言って少しも力みのない演技。ロバーツが体現する母ホリーの姿を見ているだけで、ベンの過去も、家族の歴史も、彼女自身の後悔も、全てが見て取れるほど。脚本の不足部分をロバーツが全部語り切ってくれたと言ってもいい。それほどこの映画のロバーツが良かった。
今なお美しく、めちゃくちゃかっこいいジュリア・ロバーツに改めて惚れ直させられた。