「今年観た中でベスト級」ある船頭の話 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
今年観た中でベスト級
なんと言っても一番目を奪われるのはロケーションの美しさだろう。ヒューマンドラマでありながら余り寄らないカメラも印象的だ。後ろに映り込む景色もまたキャラクターであるかのよう。
変わりゆく時代。それに伴い変わっていく人間。それを写すかのように移り変わる季節の風景。アメンボの数が減っていく様は、すり減っていく主人公トイチの心を表しているようにも思えた。
変化に順応出来ないままでは淘汰されていく。ただ生きていくのすら困難になっていく。
動物は生き残るために進化してきたが、昔のままでというのは、人もまた生き残れないのかもしれない。
近代化が進んでいく時代の物語であるけれど、ある意味で現代も同じなのではないか。時代に淘汰される。暴力に淘汰される。取り残された弱者が生き残る術はないのだろうか。
自身の生を過去に還元し未来に還元する様は、紡いでいく人の生。何かを得て何かを失う。
個人ではなく人間という大きな括りで見たとき、人ひとりは紡がれるピースの一つなのだと、妙に哲学的なことにまで考えが広がっていく。
喜ぶべきは本作のロケーションに使われた場所が今も残っていることだろう。
この作品に感じる物悲しさほど現実は悲しくないのだと信じたい。
誰にでも受け入れられる作品ではないだろうが、個人的には今年観た中でもベスト級だった。
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