「ラブをロマンスに昇華する大人の純愛作品です。」ロマンスドール マツマルさんの映画レビュー(感想・評価)
ラブをロマンスに昇華する大人の純愛作品です。
予告編を見た時から、興味をそそられ鑑賞しました。
で、感想はと言うと、結構好き♪
何処かアングラチックな雰囲気が漂いますが、芯は大人の純愛映画です。
昨年結婚された蒼井優さんが劇中でも結婚されているとか、麻薬取締法違反容疑で逮捕されたピエール瀧さんが劇中でも逮捕され、元警察官と言う設定は些か現実と被る所があって、不謹慎ながらちょっとニヤニヤしてしまったw
蒼井優さんは良い女優さんである事は今更ながらですが、ピエール瀧さんは役者としてもやっぱりとても良いんですよね。
事件を起こされた事で様々な出演作がお蔵入り、もしくはカットになる事でいろんな作品に迷惑を掛けられていますが、人間性と役者の評価は個人的には別に考える事と作品には罪は無い訳で、カットされる事で作品の質が下がるのは鑑賞側にするとやっぱり迷惑な話だからこそ、今作でカットされない英断は評価したいと思います。
…まぁそれでも内容と現実がちょっと被っているのには笑ってしまいましたw
ラブドールをテーマにした作品でちょっとファンタジーかつミステリーなお話しなのかなぁと思い、今から10年前に公開されたペ・ドゥナ主演の「空気人形」みたいな感じかなと思っていたら、ある意味直球の恋愛作品。
“クララが立った”なんてギャグを発する哲雄にちょっと面食らいましたがそこからなんか肩の力が抜けた感じになりましたw
空気が必要以上に重くならないのもこの作品の良い所。時折コミカルなBGMも使用されて、そのバランスが良いんですよね。
金に困って就職した会社がラブドールの製作会社でそこの見習いデザイナーとして入った哲雄。
社長からの命令でリアルなラブドールを造形する為に医療用の胸を製作する為に募集したモデルに応募したのが園子。
園子に一目惚れした哲雄は交際を申し込み、二人は結婚。幸せな生活を送るがそれぞれに互いの秘密を持っていた…
ここからはネタバレになりますが、園子が癌になり、離婚を切り出す所から物語は一気に進んで行きますが、なんとなく?なのは園子が浮気をした理由。
哲雄が浮気した理由は作中に明らかにしてますが、園子が浮気した事を知った時はちょっとびっくり。
清純な園子が浮気!?と哲雄でなくてもびっくりで、その理由は寂しかったからとしてもちょっと驚いた。まさかの園子の浮気はラストの哲雄の台詞にも表れているのかも知れませんが、見た目で判断してはいけないけど、少し“女って怖いなぁ”と思いましたw
哲雄役の高橋一生さんは不器用ながらにも純粋な哲雄を熱演。
園子役の蒼井優さんはやっぱり良い。
綺麗で可愛い。透き通る様な純なイメージと芯の強い女性を演じていて、それでいて一筋縄でいかない感じがまた良い。蒼井優さんが主演している事で物語の芯がビシッと通る感じ。
この辺りは男性俳優では堤真一さんにも感じます。
蒼井優さんのラブシーンが後半は多いんですが、イヤらしい感じではなく、夫婦としての真っ当な愛の形かなと。…まぁそれでもちょっとドキドキしますがw
南海キャンディーズの山ちゃんが羨ましいw
他の出演者の方も良いんですよね。
哲雄の先輩のキンキン役のきたろうさんの演技が深い。突然の死はびっくりしますが、ここから哲雄の独り立ちが始まる。
ちょっとコワモテで理解のある社長役のピエール瀧さんも良い。頼れる社長ですよ。
後輩で同業他社のスパイの両角役のハマケンこと浜野謙太さんも哲雄の一夜の浮気相手のひろ子役の三浦透子さんも良い感じ。でも出番が少なくて、特に両角の出番がただの産業スパイだけになってるのはちょっと勿体無い。
園子が癌になり、助からないと分かった所から切なくて、涙腺が緩くなります。
哲雄が園子に自分の仕事を言い出せなかった気持ちも良く分かる。
でも、園子は自分をモデルにドールを作って欲しいと言う。
自分の恋人をモデルにする事には大いに戸惑いがあるかと思いますが、それでも哲雄の園子への深い愛の形かと思います。
究極のラブドールを製作する中で避けては通れない壁。それは生々しくも園子への愛を昇華する事と造形師としてのプライドと成長が悲しくも切なく。そして何処か頼もしい。
作り上げた究極のラブドール「そのこ」も高額でも即完売なのがなんか嬉しい。
願わくは高額転売しないでねw
でも、亡き妻にそっくりなラブドールが他の男性に抱かれていると考えると…なんか微妙な感じもするし、それがもしラストの様にボロボロになって捨てられていたりとか、雑に扱われていたら…と考えるとなんか萎えますよね。う~ん、悩ましくも深いなぁ…
物語のキーとなるラブドールですが、実はかなり以前にラブドール販売元の大手の「オリエンタル工業」さんに取材をさせて頂いた事があります。
昔はダッチワイフと言われていて、卑猥なイメージが強かったりしてますが、取材をしてお話しをお聞きして思ったのは確固たる信念をお持ちである事。
アダルトグッズとして男性の性グッズとしての側面以外に実は障害を持たれている方や女性との関係を持ちにくい方への配慮と言う側面もあります。
ですが、携わっている方々には信念があり、技術を高める事でよりリアルを近づけようとする事でお上の締め付けも強くなる。
劇中でも言ってましたが、「ジョークグッズ」と言う形で売らないと許可が降りないなんて、皮肉と言うか、なんか社会の矛盾を感じます。
ここでラブドールの是非を問う訳ではないのですが、今作でもオリエンタル工業さんが特別協力をされてますが、興味本位だけでなく、ラブドール製作の技術の高さには圧倒されます。
ラストの哲雄が海岸で園子への思いを語った“スケベだったけど、良い奥さんだったなぁ”と言う台詞は好きです。
コミカルに聞こえますが、園子への愛を感じられる絶妙な言い回しではないでしょうか。
哲雄も園子も久保田商会の面々も不器用ながらも真っ直ぐで良い。
美しくも儚く、切ない。それでいて愛しい。
タナダユキ監督の女性ならではのアプローチと丁寧な演出が心地好い。
綺麗なばかりではない、人生の深さと愛しさを感じさせてくれる良い映画です。お薦めです♪