「プロミシング・サイコ・ウーマン。 テーマ性を強く押し出した意欲作…なのだがいかんせん内容がへっぽこ。」ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
プロミシング・サイコ・ウーマン。 テーマ性を強く押し出した意欲作…なのだがいかんせん内容がへっぽこ。
スーパーヒーローが一堂に会するアメコミアクション映画「DCEU」シリーズの第8作にして、悪人集団”スーサイド・スクワッド”の活躍を描く『スーサイド・スクワッド』シリーズの、女道化師ハーレイ・クインを主人公にしたスピンオフ作品。
ジョーカーと破局したハーレイ。新たな人生を歩もうと決心するも、彼の庇護を受けられなくなったことによりゴッサム中の犯罪者や警官に狙われることに。
時を同じくして、ギャングのボスであるブラックマスクは、ダイヤモンドをスリの少女カサンドラに盗まれてしまう。そのダイヤモンドには重要な情報が記されており…。
○キャスト
ハーリーン・クインゼル/ハーレイ・クイン…マーゴット・ロビー(兼製作)。
クロスボウ・キラーと噂される暗殺者、ヘレナ・バーティネリ/ハントレスを演じるのは『ダイ・ハード』シリーズや『スイス・アーミー・マン』のメアリー・エリザベス・ウィンステッド。
ゴッサムの支配を目論むギャングのボス、ローマン・シオニス/ブラックマスクを演じるのは『スター・ウォーズ』シリーズや『美女と野獣』の、名優ユアン・マクレガー。
DCEU第3作『スーサイド・スクワッド』(2016)。
興行的には大成功を収めたが世間からの評価は散々で、今ではすっかり無かったことになっている。実はウィル・スミスが主演だったことを覚えている観客がいったいどれだけいるのだろう?
確かに問題の多い映画ではある。しかし、マーゴット・ロビー×ハーレイ・クインという超絶特大ホームランをぶちかました点については褒めないわけにはいかない。
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013)などの有名作品に出演していたものの、それほど注目度が高い女優では無かった彼女。この作品で初めて名前を覚えたという人も多かったことだろう。
彼女が演じたハーレイ・クインの魅力に、世界中の男性はもうメロメロ😍原作のカートゥーンではいかにも宮廷道化師といったコスチュームに身を包んでいるハーレイを、パツパツのTシャツとムチムチのホットパンツという超絶セクシーなルックに変更。個人的には旧コスチュームも好きなのだが、やはりこのボンキュボンなエロスには争い難いものがある。『スースク』が大成功した要因の99%は、このスケベハーレイのおかげである。異論は認めない。
「男性依存体質のバカなブロンド女」という役柄を演じる事が多いロビー。彼女の派手な見た目は確かにこういう役にピッタリな訳だが、その実像は非常にクレバー。
プロデューサーとしても活躍する彼女は数々のヒット作品を生み出しており、『バービー』(2023)の歴史的大成功は記憶に新しい。
彼女のプロデュースする作品は、女性を抑圧する社会的な檻や差別、偏見を鋭い目線で抉り出す非常に社会的で知的なものばかり。その一方で、アクションやコメディなどのエンタメ要素が多く取り入れられており、観客を退屈させない作りになっている。
本作も例外ではなく、コミック映画でありながら男性中心社会の中でもがく女性たちを取り扱ったフェミニズムものでもある。そして、ドラッギーかつパンキッシュな美術/衣装と多様なアクションで、ド派手な映像を作り上げている。
女性を取り扱ったヒーロー映画といえばシリーズ第4作『ワンダーウーマン』(2017)という先行作品があるが、これは強い女性像を描き出しているとはいえその内容はアクションあり恋愛ありといった具合の王道アメコミ映画だった。
それに対し、本作はヒーロー映画における女性の扱いの不遇さを逆手に取ったような物語になっており、お決まりの恋愛要素も排されている。
女性たちが男性中心の世界から抜け出し自由と自立を手にするまでの過程が描かれており、過去もっともフェミニズム要素の強いコミック映画であるといえるだろう。
明確なテーマやメッセージが込められている点については大いに評価したいのだが、この映画が面白いかどうかと問われると…。
『アクアマン』(2018)が143分、『シャザム!』(2019)が132分と、ちょっと長めの映画が続いていたDCEUだが、本作のランタイムは109分。前2作よりもぐっと短いはずなのに、それらと比べてめっちゃ長く感じてしまった…。
ストレートに言ってしまうと、お話がへっぽこすぎる。頭のネジがぶっ飛んだ女、野望に燃えるギャングのボス、ボスに囲われた不遇の歌姫、クロスボウを操る謎のアサシンなど、面白くなりそうな要素は沢山あるのにそれら全ての描写が薄っぺらいため全くワクワクしない。
貴重なダイヤを巡り繰り広げられるギャングたちの群像劇、という絶対面白くなりそうな物語をここまでつまらなく作ったというのは逆に凄い。
今回の大騒動はカサンドラがダイヤを飲み込んでしまったことに起因している。もうここからしてツッコミたい。あんなでっけーサイズのダイヤを飲み込める訳ねーだろっ!!
この点に代表されるように、この映画細かいところのネジ締めが全然出来ていない。大体の事象が大雑把に処理されるので、物語にまるでリアリティがない。
意地悪な言い方になるけど、全てがおままごとに見えてしまい、せっかくの社会的なメッセージが上滑りしている。大層な事を述べるのであれば、まずは映画の骨子をしっかりさせる必要があるのではないだろうか。
ハーレイのペットであるハイエナのブルース。爆発に巻き込まれて死んだかと思いきや…。いや何その展開?というか、そもそもブルースの存在って物語上全く意味ない。ただハイエナを出したかっただけ。そういうの視座がブレるからやめて欲しい。
この爆発だって、ミサイルランチャーを打ち込んだ奴はそのままどこかにフェードアウト。…ハーレイを殺したかったんじゃないの?
この映画のダルさは、襲い掛かるギャングたちが全然マジに見えないところに原因があるように思う。
強い女が屈強な男と渡り歩く映画といえば、例えば『アトミック・ブロンド』(2017)なんて作品があった。この映画ではどうすればフィジカルで劣る女が男と真っ向からバトルする事が出来るのかをしっかりと考えられていたし、そのために主演のシャーリーズ・セロンは徹底的な肉体改造を施していた。
今作のアクション演出を見るかぎり、全くそういう点については考えられていない。女vs男という構図を描きたいのはわかるが、どちら側の攻撃にも全く重さがないためもの凄く段取りくさい。こういうところからもおままごとっぽさが伝わってしまう。ケレン味だけではギャングは倒せんでしょう。
リアリティラインの引き方も謎。ゴッサム・シティで巻き起こるギャング間の抗争ということで、今回はかなりリアル寄りな、超能力者とかメタヒューマンとか魔法とかは無しの方向でいくのね、と思ったら…。
いや最後の最後でそんな超能力披露されても困るのよ。これまでの生身バトルなんだったんだって事になるじゃん。しかも全員キャナリーがそんな特殊能力を秘めていた事に対してノーリアクション。いや驚くだろ普通。
そういうリアリティラインの作品だったのなら、もっと前半の方で実はそうなんですよと明示しておくべき。これじゃただのご都合主義に見える。
天然ボケなハントレスや姉御肌のブラックキャナリーなど、個々のキャラクターはとても個性的。ただ、彼女たちがチームを結成するのは第三幕からであり、やる事といえばただバトルするだけ。
せっかく良いチームになりそうなメンツが揃っているのに、キャラが掛け合いを行うのは最後の打ち上げシーンのみ。これではケミストリーが生まれようもないだろう。製作陣には『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014)でも観て、チームものの作り方を学んでから出直してこいと言いたい。
マーゴット・ロビーはこの後『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2020)という作品を製作するのだが、テーマ性やルックが本作にそっくり。多分この映画を叩き台にして作ったんだろう。
この2作を比べると、明らかに『プロミシング〜』の方が出来が良い。観るとするならばそちらの方をお勧めします。
ポップな作風で楽しいところもあったが、全体的にはダメダメな映画。
せっかくジェームズ・ワンが『アクアマン』でDCEUに良い流れを作ったというのに、この作品がそれを止めてしまった。今にして思えば、本作からDCEUの崩壊が始まったのかも知れない…。