「湊かなえの「告白」の読後感に似た不快さが…」ジョーカー KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)
湊かなえの「告白」の読後感に似た不快さが…
ホアキン・フェニックスの兄、
リバー・フェニックスの「旅立ちの時」を
直前に観た経緯がある中で、
ベネチア映画祭金獅子賞受賞や
キネマ旬報第1位の作品と言うこともあり
期待して観たが、何とも不快な印象だった。
出だしは、デフォルメの無いゴッサムシティ
が背景だったことに好感も覚え、
アーサーがどうジョーカーに変貌していくか
に期待を抱きつつ鑑賞し始めた。
ストーリー的には、
かつてのバットマンシリーズの前日譚
のような内容で、
バットマンの両親が射殺されるまでという
シリーズ冒頭につなげ、
なんとバットマンとジョーカーは母親違いの
兄弟かも、との興味深い展開を見せた。
しかし、アーサーがジョーカーになるまでの
人間性の変遷を描く視点は面白い着想では
あるが、そんな範疇を超えて、
犯罪の動機付けを与えるかのような
アーサーの変貌設定には嫌悪感を覚えた。
ジョーカーメイクで凶暴になる点は、
ドライバーがハンドルを握ることで
運転が荒くなることと似ていて、
この作品の製作陣が、
格差社会への啓発と共に
触れたい制作意図のひとつなのだろうが、
しかし、これらの点だけが大きなウエイトを
占めているとしたら
底浅いメッセージとしか感じ取れない。
何か、
湊かなえの「告白」の読後感に似た感覚で、
両者とも、ある意味、人間不信に陥っている
のではないかと勘ぐってしまった。
兄リバーは「旅立ちの時」で、我々に希望を
与えてくれる役柄に出会えたが、
弟ホアキンにとってのこの役柄は果たして。
タランティーノ、スコセッシ、
イーストウッド、ケン・ローチらの大御所の
作品が揃った選出年ではあるものの、
いずれも代表作とは言い難いレベルの作品
だったと感じている。
このことが左右したのか、
私にとっては映画鑑賞の際の
大切な指針としているキネマ旬報ベストテン
ではあるが、
結果的にベストワン作品には相応しくないと
感じる作品が選定された
数少ない年のひとつと思えた。
こんばんは♪、
詳しいレビューをありがとうございました😊
初め映画館で観ましたが、仰るようにいい気持ちにはならず、後に何度かTVでも放映されましたが、観たいとは思えませんでした。
リバー•フェニックスの『旅立ちの時』、観ました。やはり、お父さん、息子のことを大事に思ってくださいましたね。
KENZO一級建築士事務所さんへ、共感とコメントありがとうございます。
近年の作品を殆ど観ていないものの、このトッド・フィリップス監督には刮目に値する演出美を感じました。アメリカン・コミックを題材に、社会から取り残され見捨てられた狂人が理不尽な憎悪から民衆にえも言われぬ恐怖を与えるホラー映画の内容は生理的に苦手ではあるのですが、色彩も含め映像表現の統一感がずば抜けて優れていました。ドイツ表現主義の巨匠フリッツ・ラングの「M」の恐怖表現、または「暗黒街の弾痕」の光と影の映像美を連想させます。この演出と主演ホアキン・フェニックスの高度な怪演は、個人的に高く評価したいと思いました。
良い映画の概念は、1980年代から特に21世紀になって多様化しています。優劣の差より好悪が優先されるようになりました。批評家もひとりの映画愛好家と捉えていいと思います。映画に夢中だった22歳頃に自分の観方を確立した私は、そこから余り進歩なく今に至っています。そんな私に映画愛の共感や新しく様々な刺激を与えてくれる作品が、自分にとって良い映画に値します。自分と価値観が離れている人の意見は、参考程度にしています。
今晩は
コメント、ありがとうございます。
私は,キネマ旬報は総括が乗る(2月だったかな・・)号しか買いません。
で、いつも思う事。
”これだけ、映画評論家を名乗る人が居るのに、評価がバラバラじゃん!”です。
故に、私はキネマ旬報の得点は”ふーん”と言う感じで観ていますよ。
映画って、それだけ観る人によって、評価は変わるんでしょうね。
で、今作。私はホアキン・フェニックスの畢生の演技に魅入られました。自分の出自をジョーカーを演じる事で、泣き笑いする姿。
仰る通り、今作のジョーカーは現代日本でも起こっている無差別犯行に繋がっているよな、と思った作品でもありました。では。