「誰しもに起こりうる最大限の不幸と最低限の幸せの末、産まれる共感という危険性」ジョーカー オレさんの映画レビュー(感想・評価)
誰しもに起こりうる最大限の不幸と最低限の幸せの末、産まれる共感という危険性
1980年代、社会情勢の悪化に伴い荒んだゴッサムシティを舞台に、スタンダップコメディアンを夢見る青年アーサーフレックが狂気に堕ちていく様を描いた、DCコミック史上最狂のヴィラン、ジョーカーの誕生を描いた作品。
数多くの名優がそれぞれの解釈で演じてきたジョーカー、今作は怪優ホアキンフェニックスと彼に熱烈なオファーを送ったトッドフィリップス監督のタッグで、今まで描かれてこなかったジョーカーの誕生の経緯に迫った内容だった。
過去数作のジョーカーはサイコパスや狂人などの人物描写で劇場型の犯罪や無差別テロなどを引き起こす理解不能の存在であったが、今作はスタンダップコメディアンを夢見る恵まれない青年アーサーフレックという人物が様々な不幸や理不尽に見舞われ、唯一の希望とすがっていた母親や素性不明の父親、憧れのコメディアンのマレーフランクリンに対する失望と怒りなどを通じて、アーサーの心境に思わず同情してしまう、彼の行動理由に納得してしまう、ある種非常に危険な感情移入をもたらす作品に仕上がっていたのが驚きだった。
多く挙げられている意見同様に確かに今作をジョーカーの名を持って製作する必要があったかは疑問だったが、貧富の差や人種による差別が横行するこの時代に今作をジョーカーの名とともに発表したことで作中のアーサーの行動に共感を覚えてしまった観客への警鐘を鳴らすと同時に多くの人々に共感を与えるエンターテインメントに仕上げた手腕は素晴らしいの一言では表しがたいモノだった。
終始アーサーが息苦しい日常に苛まられる展開が1時間半超続き、遂に全て吹っ切れてあのメイクと独特の身振り手振りであの階段を降りていくジョーカーへと化していく姿は待ってましたと言わんばかりの展開だったし、無様に走り、車に轢かれ、何一つスタイリッシュではなかった逃走劇の末、駆けつける警察官を気にも留めず、タバコをふかしながら悠々と歩き去るジョーカーの姿に痺れた。。
各レビューで触れられているラストの説は自分の感性ではどちらとも言えないが、もしそう捉えるとしたらアーサーへの感情移入の最後の予防線かつまさにジョークともいえる演出効果を生み出すことで『ジョーカー』と銘打った作品としてこれほど見事なラストはないのではと感じた。
2019年10月05日(土)1回目@丸の内ピカデリー Dolby Cinema
2021年01月05日(火)2回目@Netflix