「5つの謎を検証」ジョーカー kimmyさんの映画レビュー(感想・評価)
5つの謎を検証
※ネタバレを含みます。
※ストーリー解釈がメインなので、
映画を見てから読んでください。
とにかくホアキン・フェニックスの
演技が素晴らしい作品だったと思います。
後世に残る名作だと思います。
最後に大きなオチがあるので、
まず主人公アーサーの物語をおさらいします。
【ネタバレを含むあらすじ】
弱者に不寛容な生きづらい社会。
脳の一部を損傷し笑いが止まらなくなる
病気を抱えた主人公は
人々に馬鹿にさられながらも
「狂っているのは自分ではなく世間の方だ」
と信じて、病弱な母親を介護しつつ
貧しく苦しい生活を健気に生きる。
夢は人を笑わせる
スタンドアップコメディアンだが、
毒舌や皮肉の才能はなく
人から笑われるピエロの仕事をしている。
ある日、電車内でエリート会社員3人に
ピエロ姿を馬鹿にされた上で暴行され、
持っていた銃で3人を射殺してしまう。
罪悪感があるものの、
なぜか気分が晴れやかになる。
貧富の格差が広がる中、
ピエロ姿の犯人は英雄視されるようになる。
主人公は定期的にソーシャルワーカーに会い
精神薬を服用していたが、
社会福祉縮小のためサービスが打ち切られ、
薬を貰えなくなり、妄想を見るようになる。
そんな折、母親の手紙を読んで
街の有力者トーマス・ウェインが
実の父親であると知り、
異母弟であるブルースに会い
ウェインに確認しに行くが、相手にされない。
自分の出生について知るため
母親の過去を調べようと、犯罪者を収容する
アーカム精神病院でカルテを奪う。
すると自分は養子で、幼少時に
母親とその恋人から虐待を受けており
自分を苦しめてきた脳の障害は
その後遺症だと知る。
狂っていたのは世間ではなく自分だった。
人生を破滅させた母親を優しく世話してきた
自分の人生は喜劇である。
主人公は母親を殺し、
ジョーカーとして生まれ変わる。
自分を陥れた同僚を殺し、
テレビのトーク番組に出演し
会社員殺害を告白。
殺害理由は音痴だったから。
(ジョークのつもり)
そして昔から父のように憧れ
尊敬していたトーク番組司会者を
生放送中に射殺する。
(最高のジョークのつもり)
(※killing jokeと呼ばれています)
街は貧困に喘ぐ暴徒で溢れており、
ジョーカーは彼らのシンボルとして
崇められる存在となる。
そして母親と同様、
アーカム精神病院に収容され
日々妄想を見て過ごすことになる。
これがのちにバットマンの最強の宿敵となる
ジョーカーの誕生秘話である。
【5つの謎を検証】
①どこまでが妄想でどこからが現実か?
いわゆる「信用できない語り手」という手法。
主人公の妄想と現実が入り混じって
境界がよく分からない作りです。
一部トークショーの観客席にいる所と
ソフィとの関係は妄想ですが、
ここでは、冒頭からすべて現実で
「最後に精神病院で思いついた何か」は
妄想である、という路線で進めます。
その「何か」については⑤で取り上げます。
②ジョーカーはあのジョーカーなのか?
主人公はバットマンの最強の宿敵である
狂人ジョーカー自身なのか、
それとも主人公に影響を受けた
暴徒の一人がジョーカーになるのか。
最後に主人公を車から引きずり出して
祭り上げた仮面の若い男や
ブルース・ウェイン(のちのバットマン)の
両親を殺した仮面の若い男が
あのジョーカーになるのだろうか
と一瞬思いました。
主人公に影響を受けた
暴徒の一人があのジョーカーになり
第二第三のジョーカーが生まれていく
という面白い発想かと思いましたが、
やっぱり主人公が
あのジョーカーという気がします。
その理由は③で説明します。
③なぜ主人公はジョーカーになったのか?
この作品を見た人の多くは
誰でもジョーカーになり得る、
弱者に不寛容な社会こそが
ジョーカーを生み出したのだ、
という論調だと思うのですが
冷静に考えるとそうじゃない。
ジョーカーを生み出した原因は
紛れもなく脳の一部の損傷で、
そして福祉サービスの打ち切りにより
精神薬を飲めなくなったこと。
なぜ脳を損傷したかというと、
ほかでもない今まで尽くしてきた母親と
その過去の恋人から虐待されていたからです。
弱者に冷たい社会が悪い、
自分と母親は健気に生きる
清く正しい貧困層だ、と信じてきたのに
実際は妄想症のある毒親とその子供だった。
それを知って、客観的に見て
自分の人生は喜劇である
と主人公は感じました。
そこからはほとんどあのジョーカーです。
一番輝かしい舞台はトークショー出演です。
ピエロのメイクをして
エレベーターに乗るシーン、
階段を踊りながら降りるシーン、
トークショーで紹介されて出て来るシーン、
めちゃくちゃかっこよかったですね。
この時、主人公は自殺するつもりだったので
最後の晴れ舞台への緊張感からか
ジョーカーとしての自信からか
別人のようでした。
そしてここまで容赦なく
「ジョークとして」人を殺すのは
主人公があのジョーカーである
根拠となると思います。
社会に対しての怒りなど、
簡単に説明のつくありきたりの理由では
あのジョーカーにはなりません。
という訳で、
社会に不満を抱いている自分も
もしかしてジョーカーになり得るかも、
と恐怖を感じている方、大丈夫。
そんなことではジョーカーにはなりません。
④ブルースとは異母兄弟なのか?
主人公の母親は30年前に
ウェイン家で働いており若く美しく
ウェインからラブレターをもらっている。
(当時の母親の写真の裏に
「君の笑顔を愛す。TW」と書かれている)
母親が主人公と養子縁組をしたのは
ウェイン家で働いている時だった。
精神疾患のある独身女性が
養子縁組できるわけもないので、
この時は精神疾患(妄想症)がなかった
と思われます。
その後、ウェイン家を追放されている。
母親は妄想症になり、
恋人の男性に暴行を受けながら育児放棄、
息子は恋人に虐待を受け脳の一部を損傷する。
そしてアーカム精神病院に入院する。
この事実から考えて、
主人公はトーマス・ウェインの息子(落胤)で
ブルースとは異母兄弟である
という可能性は残されていると思います。
ウェイン家は養子縁組という形式を取って
息子を母親に引き取ってもらった。
ちゃんと子育てをするようなら
資金援助をしようと思っていたけれど
母親が暴力男と一緒になり
息子を虐待したので関係を断ち切った、
ということだったかもしれません。
母親の精神病院のカルテをじっくり検証したい
と感じました。
⑤最後のシーンはどういう意味か?
この作品はバットマンを知らなくても
楽しめるようになっているのですが、
それだと可哀想な犯罪者の物語で終わります。
もちろんそれだけでも相当クオリティが高く
映画館で見る価値がありますが、
バットマンとジョーカーの
設定を知っている人は
最後のシーンでもっと楽しめます。
主人公は精神科医と話しているうちに、
路地裏で両親を殺された
ブルース・ウェイン少年が
将来バットマンになって悪と闘う
というジョークを思いつきます。
また、ジョーカーの設定として
ハーレイクインという元精神科医の
恋人がいるのですが、
それは精神病院での面談によって
思いついたものと読めます。
つまり
バットマンシリーズの物語の
生みの親はジョーカーである、
というお洒落なオチなのです。
そう言われてみれば、
エリート会社員の殺害はどことなく
バットマンを彷彿とさせます。
勧善懲悪の自警団で悪を滅ぼす。
もともとバットマンシリーズでは
バットマンが正義の味方になったり
復讐の鬼になって悪に染まったり、と
単純な二元論では終わらず
バットマンとジョーカーは正反対に見えて
狂気を軸に同じようなことをする二人
として描かれています。
それもそのはず。
主人公アーサーは自分の経験を元に
自分の表裏一体の化身として
バットマンを誕生させたのです。
凄いオチです。
これだけ陰鬱な内容なのに
粋なコメディ作品のように見せるのは
「笑いとは何か」をずっと考えてきた
コメディ映画の監督だからこそ
撮れた気がします。
【ジョーカーについて】
ストーリー解釈は以上ですが、
やっぱりホアキン・フェニックスの
演技がとんでもなく素晴らしい。
ジョーカーは色んな俳優が演じていて
「バットマン」のジャック・ニコルソン、
「ダークナイト」のヒース・レジャー、
「スーサイド・スクワット」の
ジャレッド・レト、
全て素晴らしいと思います。
ヒース・レジャーが
撮影後に亡くなったこともあり、
ジョーカー役を演じるのは
悪魔に魂を売るような行為とも
言われています。
ホアキン・フェニックスの
鬼気迫る迫真の演技。
ジョーカーを演じることへのハードルを
また一段上げました。
この演技を見るだけでも、
十分劇場に足を運ぶ価値があると思います。