劇場公開日 2019年10月4日

「良くできた大作サイコホラー」ジョーカー しずるさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5良くできた大作サイコホラー

2019年10月9日
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悲しい

怖い

キャラクターの予備知識なく、なんかアメコミのヴィランの人でしょ?位の軽いノリで見に行ったら、思いの外しんどめのヤツだった…。

バットマン知らん勢から見ても、充分良くできたサイコホラー作品として楽しめた。というか全然楽しくはなかったが。
雨、高層ビル、貧困街。暗さと汚さと虚飾の入り交じる世界観も見事に表現され、光と影に彩られる映像、アングルも一つ一つ哀しく美しい。
何処までが現実、何処までが妄想なのか。進むにつれて曖昧に、朦朧と脳内に閉じ込められていくような感覚もいい。
私は本当に役者を判別せず、観賞後にサイトを見て漸く、「え、アーサー役ホアキン・フェニックスか!?てかあれロバート・デ・ニーロだったんか…」てな体たらくで大層申し訳ないが、ホアキンの鬼気迫る演技は、ネームバリュー関係なく文句なしで素晴らしかった。

嘲笑、悪意の蔓延る現実、格差社会、政治やマスコミの嘘など、現代にも重なる閉塞感と鬱屈が、妙にリアルに神経を逆撫でしてくるのが怖い。
ラスト、司会者との問答は、そのまま犯罪者側の主張と社会的な倫理との対峙として描かれていると思うが、ジョーカーの台詞通り、「善悪なんて自分で決めればいい」と、彼は社会や他人に沿おうとする事を止め、自分の決めた善悪のみで生きる道に踏み出す。
それは狂気というよりは、ただの価値観の転換に過ぎないようにも思えて、薄ら寒くなる。
他者に受け入れられず、排他される立場で望んだのは、【フツウと違う自分でも愛し、受け入れてくれる世界】だったろうに。結局、許容できないものを悪意と暴力で取り除く、彼が憎んだ人達と何ら変わらない価値観に堕ちちゃったね。

視点をほぼアーサーに絞って、真実と虚構を曖昧にするのも、共感し易い背景状況や心情の描写も、徹底的に追い詰めた先の爆発も、観客を引き込む為の仕掛けのひとつ。製作側の描きたいのは、政治批判でも、思いやりの大切さでも、暴力の肯定でもないという印象を受けた。
だからだろうか。余り重いメッセージ性は感じていない。とても良くできたホラー大作だなぁというのが、私の感想。

OPタイトルやエンドロールが、古きよきコメディ映画を彷彿とさせるスタイルなのも、盛大に皮肉が効いている。
ほうら、俺の人生、最高の喜劇だろう?と、ジョーカーの笑う声がする。ちっとも笑えない、と、八の字眉毛とヘの字口でスクリーンを睨む私がいる。

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しずる