「アイデンティティーを「多面」でとらえる映画的工夫」よこがお AuVisさんの映画レビュー(感想・評価)
アイデンティティーを「多面」でとらえる映画的工夫
自意識と外部との関係を考えるとき、建て前と本音とか、外面と内面とか、心と身体を「多層」でとらえる表現が多いのはおそらく、自我を(外から見る客観ではなく)中心から認識する主観で把握しやすいからではないか。
しかし映像では、人物を多層的にとらえることは困難だ。そこで深田晃司監督は、筒井真理子が演じる市子の自我のゆらぎを、過去と現在という2つの時間軸と、それぞれに対応する髪の形と色によって、「多面」で描こうと企てた。思えば現代はコミュニケーションの技術が発達し、情報を大量消費するようになったことで、かえって他者を短絡的に一面でとらえて評価したり非難したり傾向が強まっているのではないか(マスコミと世間の市子への攻撃は典型的)。
市川実日子が演じた基子の内面の動きも、物語を進める補助エンジンとして有効に機能していた。市子と基子、2人の女のミステリアスな心の揺らぎに幻惑され、魅了された。
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