「修行の先に得られる「悟り」の様な心境と業な作品です。」サタンタンゴ マツマルさんの映画レビュー(感想・評価)
修行の先に得られる「悟り」の様な心境と業な作品です。
昨年秋の日本での劇場公開から一部の映画ファンの間で話題となっていた作品で、面白い・面白くないを置いといたとしても映画ファンなら“観てみようかなぁ”と心擽る作品かと思い、気にはなってましたが、秋の劇場公開での観賞機会を逃して軽く後悔。
この回「下高井戸シネマ」で5日間の期間限定公開を知り、休みを1日潰す覚悟で鑑賞しました。
で、感想はと言うと…う~ん。
面白い・面白くないと言うよりかは限りなく観る人を選ぶ作品で、観た事で1つの修行を終えた様な達成感w
映画を観ると言うよりも、作品を体感するみたいな感じです。
いろんな映画作品を鑑賞した中で確実に1つのターニングポイントになりそうな作品かと思います。
「ケツの肉が取れる映画」
「観賞した事が履歴書に書ける映画」
「高級な椅子で観賞すると睡魔が襲ってきて、安価な固い椅子で観賞すると膝と腰に痛みが襲ってくる。どちらにしても観賞中は何かに襲われる映画」
「観賞前に必要な物は忍耐力と好奇心と根性。それに十分な睡眠。十分な食事。トイレに行っておく事。観賞中にお腹が減った時のおやつ(音の鳴らないモノ)と飲み物は必須」
といろいろと言われている作品で、これを劇場で鑑賞した事は確かに誇っても良いかもw
とにかく、長い!
上映時間7時間18分は映画館で観た作品の最長記録。
途中インターミッション(休憩)を約10分づつ入れるので、なんだかんだで8時間程映画館に居る事になります。
全編モノクロで、驚異の長回しでの撮影で7時間18分を約150カットでまとめたと言うのはもう狂気の沙汰としか言い様が無い感じ。
加えてアート系の作品でいろんな思想と言うか、難解なメッセージも入っている。
公開は1990年代で舞台となっているのは1980年代。
社会主義圏崩壊前のハンガリーの田舎町を舞台にしていて、とにかく閉鎖感が半端無い。
道路が舗装されて無い事から、雨でぬかるみ、冬場は都会への行来が困難になる。
それでいて、町は仕事も無いからお金も無い。
住民の顔は疲弊感と焦燥感。虚無感が漂っている。
そんな町にある男が帰って来る事が話題となり、その男が事件と言うか騒動の発端となると言うのが簡単な荒筋ですが、2回目のインターミッションまではもう単調な映像が淡々と流れていて、正直かなり苦痛でしたw
まぁそれを期待してた面もあったんですが、スローパンチが効きすぎていてノックアウト寸前w
作品としてやっと動き出したと感じたのは2回目のインターミッション後から。
ここまでに約4時間を費やした訳ですわw
搾取されると言うか、立場的に弱い人のやるせなさが長回しで訴えかけてきて、いろんな人の日常の業が描かれてます。
なので、思ったよりもハードメッセージな部分も多くて、爽やかさとかエンタメ感は個人的には殆ど感じられませんでした。
それでも何か凄いモノを観た様な感じで、モノクロの世界には希望や未来が感じられず、何処までも続く道を歩く様は人生の虚ろを感じさせ、風がビュービューと吹き、落ち葉や紙クズがこれでもかと吹き荒んでいる。
皆、雨に濡れる事を気にしないのか、傘をさす者は皆無。
それは人生の無情になすがままに翻弄されている様にも思える。
ラストのドクターが自身の家の窓を板で隠して、外からの光を入れないのは、この作品の圧倒的なやるせなさを描いている。
ここまで打ちのめすのかと思うくらいに強烈で、でもこの作品の凄まじいメッセージが妥協なく描いている。
やっぱり、凄い作品ですわ。
正直、人にはお薦めが出来ない作品で、これを観よう!と言うのは映画鑑賞を極めた、もしくは極めようとしている人か、ちょっと変な人w
自分は明らかに後者寄りなんですが、観た事で何か変わるかしら?と言う期待と“オレ、こんなの観たんだぜ~”と言う飲み屋トークのネタにはなるかと思った訳ですわw
日本語字幕のDVDは未発売なんですが、この作品は明らかに映画館で観るべき作品かなと思います。
他の方も言われてますが、普通なら10秒程で終わるのを1分ぐらい掛けて撮影していたりするシーンがてんこ盛り。
この映像余分かな?と思う部分をカットしたら、多分2時間ぐらいで十分に編集出来ると思うんですよねw
でも、その残り5時間がこの作品のウリでキモな訳でして、ここに意味と意義を見出ださなければお話にならない作品でもあります。
加えて、映画館と言う鑑賞以外の要素はバッサリカットした空間で観るからこそ挑める訳で、DVDなら早送りか、ストップして“…まっ、今度でいっか!”と途中で鑑賞を断念して、多分その後は見ない様な気がしますw
映画館で観る事によって、他の人達とこの思いを共有すると言うか、共犯意識的なのが高まる感じと、「24時間テレビ」の24時間マラソンでゴールをしたランナーを迎えて、皆で「サライ」を歌う様な達成感を得られるかなとw
でも、作品としては1つの出来事をいろんな視点かは観ると言う長尺作品ならではの構成が面白かったりするのと、やたら変な人が多いのも面白かったりします。
酒場で皆で盛り上がっていく中で頭にチーズロールを乗せたオヤジの描写はもう“病んでまんな~”的なんですが、飲んでて酔っ払ったら総じてこんなもんかとw
いろんな描写が独特でもう、観賞後は全てがサタンタンゴに見えて、世の中は全てサタンタンゴだと言う心境に陥ります。いや悟ります。洗脳されますw
いろんな作品がある中でエンタメ感が満載の作品もあれば、サタンタンゴみたいな作品もある。
でも、それらは全て「映画作品」な訳で、世の中の映画作品の中でも極地的な作品を鑑賞する事も映画を観る事に変わりはないので、個人的には難解と噂の1989年発表で日本未公開の「シルバー・グローブ 銀の惑星」と並んで、観たかった作品でしたので、とりあえず良かったかなとw
観る人を選ぶ作品で劇場公開の頻度は限りなく少なくなっていますが、機会がありましたら、如何でしょうか?