「南米幽霊なみだの恨み節」ラ・ヨローナ 泣く女 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
南米幽霊なみだの恨み節
ジェームズ・ワン制作の『死霊館』ユニバースに、
メキシコで古くから伝承される怪談“ラ・ヨローナ”
を題材としたホラー映画が登場。
“ラ・ヨローナ”は、浮気をした夫への嫉妬に狂って
自分の子ども2人を怒り任せに溺死させ、その後悔から
死してなお泣き続けているという女幽霊。幼い子どもを
見ると自分の子と思い込み、拐って溺れ死にさせよう
とするのだという。なんというか、日本の古典怪談
にも通じる情念や怨念の深さを感じるお話ですね。
うらみます~♪みたいな。
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まずホラー映画なので、怖いかどうかについて。
まあ僕は元々ビビりだが、ええ怖いです。きっちり怖いです。
『アナベル 死霊人形の誕生』よりもやや上くらいかしら。
アメリカンホラーとして平均以上。『死霊館』
ユニバース作としては真ん中くらいの恐怖度かと思う。
序盤の薄暗い廊下を歩いていくシークエンス、
予告でも使われていたハンドル式車窓の使い方、
ビニール傘越しの恐怖シーンはかなーり怖くて良い。
終盤も、『死霊館』ユニバースらしいダイナミックな
恐怖演出で、悪霊VS主人公一家+α の死闘が描かれる。
相手がメキシコ由来の幽霊ということもあり、
ホラー映画でよくある悪魔祓いとは多少異なる手法で
対決していく流れも面白い。本作で協力してくれる
人物はカトリックの神父でなく、多様な自然の神や
精霊と交信して呪術を執り行うシャーマン(祈祷師)
なのである。『宗教を問わず“信じること”が力になる』
と説くフレキシブルな価値観の持ち主が登場する点も、
キリスト教圏の映画としては珍しいんじゃなかろうか。
悪霊への対抗手段も、火、お香、卵、植物など一風
変わったアイテムが対抗策として登場する。タラーン!
宗教は無関係と言いながら祭壇で浄化したアイテム
や十字架が劇中の悪霊に有効なのはちょっと違和感が
あるが、それも悪霊が生前信じていた宗教に基づいて
選んだアイテムと考えれば個人的にはまあ納得かな。
ただそのせいで、シャーマンによる悪霊祓いという
特徴も薄めに感じられてしまうのが惜しいのだが。
...
この”特徴が薄め”というのは、
残念ながらシャーマンに限った話ではない。
本作の恐怖度はなかなかだし、上記のように
面白い要素もあるにはあるのだが、総合的には
イマイチ個性の薄いホラーだったという印象。
なによりまず、”ラ・ヨローナ”という題材の活かし方。
白いドレス姿で黒い涙を流すラ・ヨローナさんは
おっそろしい風貌だし、その出自も怖いのだが、
“泣き声とともに現れる”や“水の近くに出没”といった
特徴などがさして恐怖演出に活かされていないので、
凶暴だがシンプルな印象に留まってしまっている。
先に述べた傘や車窓のアイデアを除けば、オリジナ
リティのあるギミックや演出が少ないのも残念だ。
それに"裏切られた女の情念"というこれまでの『死霊館』
ユニバースでは描かれなかった恐怖を扱っているのに、
最終的には近年のアメリカンホラーにおいてステレオ
タイプとも言える"家族・親子の絆"というテーマに
収まってしまっているのは、やはり勿体無い。
幼い長男が憧れた父のように妹を守ろうとする姿や、
"ラ・ヨローナ"が一瞬憎悪を忘れる場面には心を
動かされたが、今回は親子の絆だけではなく、
夫婦間の愛憎といった要素も描いてほしかった。
序盤で登場した主人公のペンダントは明らかに
"ラ・ヨローナ"と主人公との対比を狙っていた
と思うのだけど、結局活かされなかったしなあ。
あと、考えてみれば何故“ラ・ヨローナ”がメキシコ
からロサンゼルスくんだりにまで出張して来たのか
(いちおう地理的には近いが)という点も特に
説明されていなかったり、1973年という時代設定も
実話ベースの『死霊館』シリーズに年代を合わせた
だけでそこまで作品には活かされていない感じ。
あともうひとつだけ野暮なツッコミ入れるなら、
主人公の娘さん、肺活量ハンパ無いね……。
...
以上です。
女幽霊に狙われる恐怖譚としてはまとまっているし
しっかり怖いけれど、"泣き声"、"水"、"情念"といった
この怪談ならではの特色を打ち出してほしかった。
まあまあの3.0判定。
<2019.05.11鑑賞>
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余談:
『死霊館のシスター』と本作を観ると、さすがに
『死霊館』ユニバースもやや息切れ気味か……。
とはいえ、毎回一定以上の出来のホラーを世に送り出して
くれているのでホラー好きとしてはありがたい話。
それに、ご存知かもだが『死霊館』ユニバース
次回作はすでに予告編が公開されております。
次の主演怨霊は、もはや看板女優のアナベル人形!
心霊現象研究家ウォーレス夫妻が保管している大量の
呪物がアナベル人形によって一斉に発動してしまい、
「死霊ズ……アッセンブル!!」な事態になるらしい。
タイトルも『アナベル 死霊博物館』!
やり過ぎ感はあるけどなんだかんだ楽しみ。
コメントありがとうございます♪
新しい機能になってから、共感入った過去作品の多くの方のレビューをちょいちょい再見させて貰ってます。
色々新しい発見あったり、自分のレビューを忘れていたり(笑)
『ラ・ヨローナ』、多少物足りなさはありましたが、安定のユニバースでしたね。
『アナベル3』は来週、『死霊館3』は来年9月全米公開だとか。
残念ながら地元では一度も上映した事無いので、気長にレンタル待ちです(>_<)
『死霊館3』、狼男を扱った内容になるらしいですが、ヘンな方向に行かないかちと不安要素…。
レビューにも書きましたが、ラ・ヨローナ誕生秘話を描いた続編を作ってくれないかなと期待しちゃいます。