「大嫌い、大嫌い、大好きよ。」ゴーストランドの惨劇 KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
大嫌い、大嫌い、大好きよ。
一瞬たりとも目を離せない、全てのシーンが目に焼き付いて離れない恐怖映画。
容赦ない暴力に震え、変わり果てた容貌に震え、驚愕の構成に震え、姉妹の強い想いに震える。
ずっとずっと怖い映画だった。
DVや暴力への現実的な恐怖、お化け屋敷を歩く恐怖、隠れんぼ追いかけっこの恐怖、霊的な何かへの漠然とした恐怖、身近な人が狂う恐怖、混ざり混ざってノンストップで襲ってくる。
痛みと面白さと怖さと悲しみと感動とで鑑賞後の身体はボロボロ。もう一度観たい。
そして謎の恍惚感。やめてやめて。
色々なジャンルの恐ろしさが込められていて、モチーフはわりとぶっ飛んでいるのに、どうしてこうもリアルに感じるんだろう。
理解も意思疎通を図ることもできない、圧倒的な不気味さを持つ二人組の、特殊メイク満載のクリーチャー感が良かった。絶対に遭遇したくありません。
ホラー小説家を目指し内にこもりがちな妹のベスと、彼女につい甘く構ってしまう母親、そんな二人を疎ましく思いイライラして悪態を吐く姉のヴェラ。
越してきた叔母の家は不気味なアンティークとドールに溢れていた。
荷解きもほどほどに、悪夢はいきなりやってくる。
魔女とバケモノの二人組はもともとこの家にいたのかもしれない。ドールは彼らのコレクションだったのかな。
キャンディトラックはすれ違って先を進んで行ったでしょう。
悪夢からの悪夢からの悪夢。イコール現実。
一瞬何が起こっているのか分からなくなり、「あなたはまだ"ここ"にいる」でハッとする、まさかの多重構造にたまげた。
小説家を夢見るベスだから出来た創作世界、登場人物たちの正体がまた悲しい。
大人パートもかなり怖い。
ヴェラ怖いよ…あんなにイキってたヴェラがこんなになっちゃうなんて信じたくないよ…現実じゃなくて良かったよ…現実も最悪だよ!
ママの態度がだんだんおかしくなっていったのも、創り上げた世界に歪みが入った現れだと思うと辛い。
自分の世界を創り上げて閉じこもろうとしてもかき消せない奴らの痕跡。
オカルトの要素も大きく、HELP ME!やカラクリ人形、ひとりでに閉まるドアにビクビクしていた。
戻ってきてまた始まる、また続く「お人形さん遊び」。
ゴシックなゴテゴテメイクにフリフリの衣装、もうドール達も怖いよ。遊ばないで。
なかなか一筋縄ではいかないその生態。
執拗に殴ってくるバケモノを見ているうちに、その徹底ぶりがだんだんおかしくなってきて少し笑ってしまった。
私が殴られ続けている感覚。正直色々と諦めてきて、なんかもう、このまま死んでもいいかな、みたいな感覚。
しかし絶対に諦めないベスは本当に強い。
色々なフェイントも混ぜつつ、二人ドアを抜けて走り出すシーンに鳥肌。最高。
音楽の演出がもはや神々しい。ボロ泣き。
そして本当にしつこい魔女。今まで変化球だらけだったのに、このタイミングでそんな一般的な飛び道具使います?勘弁してください。
黒人警官の後ろから普通のトラックが過ぎて行くのも本当憎い。
「来るぞ来るぞ…あっ来なかった!…いややっぱ来るんかーい!」というホラーの鉄板をリアルでやるとあんな感じなのね。
学びました。知りたくなかったです。
現実と夢の世界、どちらに留まるか?という選択。
希望が見えてからの絶望の襲来ほど嫌なものはない。
それでもベスは選んだ。
大好きなママも最終的に後押ししてくれたことが熱かった。
一つの世界を振り切る勇気と強さ、それを決断させた愛と使命感、その先の苦痛。
落差を見せつけられるのが辛い。
しかし最後、本当に本当に良かった…。
見えた希望は幻じゃなかった。
あんなに疎く思っていたベスに対して、ヴェラが「守る姿勢」を強く見せてきたことに心底嬉しく、切なく思った。
戻ってきたベスに安心し、二人でお菓子を食べ漁る時のヴェラの笑顔がとても好き。
身体を小刻みに揺らして、ベスに餌付けして。
顔についた傷の数や変形の仕方を見ていると、きっとそれまでも「お人形さん遊び」のたびに率先して自らを差し出していたことが伝わってくる。
ホラー小説を書きながらも怖いものが多い妹のために。
呼び止めた警察に対して「妹に触るな!」「近付くな!」と叫んでいることにまたこみ上げてくる。
つい数日前の悪態を思い出しながら観ていると涙が止まらない。
ヴェラの想いとベスの想い、二人の行動にそれがありありと映し出されていることに胸がいっぱいになった。
「大嫌い、大嫌い」と「大好きよ」の対比も好き。
序盤で母親が娘達を守るために全力で反抗してくれるのも好き。
姉妹への愛に差なんてない。
最後、窓から覗いた人と指差す先、ベスの話す言葉にまた号泣。
きっとこの先には思い描いた未来が待ってる。