「わたくし、賞味期限切れ食品耐性には自信があります。」キングスマン ファースト・エージェント bloodtrailさんの映画レビュー(感想・評価)
わたくし、賞味期限切れ食品耐性には自信があります。
ラスプーチンの毒薬耐性にも引けを取りません、多分。史実では、暗殺された夜、青酸カリ入りのタルトをほとんど平らげたけど、2時間は全く平気だったらしいですけどね。
第一次世界大戦の舞台裏で暗躍した人々。と言う、これは「キングスマン」のスピンオフと言うよりも、また「始祖の物語り」と言うよりも、単独作品として立派に興行が打てる内容じゃんか!ってのは感じました。
と言うのもですよ。
史実に「忠実」と言う訳じゃあーりませんが、ちゃんとなぞって行くんです。出来事も事の顛末も。南アフリカのボーア戦争を幕開けとして。キッチナーがボーア人(オランダ系移民)の収容所に居たりしますが、彼はボーア人虐待を黙認していたと言われてたりします。「BRITONS wants YOU」の募兵ポスターは、まんまです。ロシアに向かう装甲巡洋艦ハンプシャーは、モートンの裏切りにより、ドイツ軍Uボートの魚雷で撃沈されます。
◆フリッツ・ジュベール・デュケインと言う、史上最悪の工作員がモデル
このモートンですが、後にドイツ軍工作員となったボーア軍軍人である、フリッツ・ジュベール・デュケインをモデルにしてると思われ。デュケインの人生は波乱そのもの。「キッチナーを殺した男」として知られています。
ボーア戦争時代、キッチナーはイギリス軍の総指揮官。その指示による焦土作戦で、デュケインの両親の農場は焼き払われ、妹はレイプ後殺害され、母親はボーア人の収容所で亡くなっています。これがデュケインに反英国精神を植え付け、更にはキッチナーへの復讐心へとなる訳で。
現時点では真偽が定かではないにせよ、デュケインは紆余曲折の末、ドイツ軍工作員となり(これは事実)、キッチナーが乗船する巡洋艦ハンプシャーにスコットランドで乗船。待機中のUボートに海上から合図を送った後、救命ボートで脱出。Uボートはハンプシャーを魚雷で攻撃後、デュケインを回収した、と言われており、ほぼ、まんまが映画では再現されてました。
モートンはスコットランド人という設定。デュケインはフランス系のボーア人ですが、モートンのモデルは、このデュケインと思われます。ちなみに、デュケインは第二次世界大戦中には「デュケインのスパイ網」なる組織を自ら組織し、米国でドイツ側スパイとしての工作活動を行っていました。
映画そのもの方は、マシュー・ボーンらしいテンポの良さ。ガンガン攻め進みます。押して押して押しまくり。
甘っちょろくないです。死ぬ時は、誰であろうが死にます。情け容赦ありません。
自国の歴史にも手厳しいです。大英帝国の血塗れの歴史にも突っ込みます。
「戦争回避のため」の自衛に失敗した「アーサー」は、より多くの命を救うための「殺し」を実行する。
「悪」は、いや「絶対悪」ですら、双方向性。つまり、私達から見れば彼らこそが「悪」であっても、あちらから見れば私達こそが「悪」。だから、戦争に正義は無い。と、これは正しくもあり、間違いでもあり。確実に、あの山羊は「絶対悪」。レーニンとヒトラーの両者を操るってのは、さすがにアレですけど、戦争する両者を煽ったり、迂回支援したり、ってのが現実の現代社会な訳で。ラストは、そこにチクリってことでしょうか。
取りあえず、ノン・ストップ・アクション・エンタメとしての完成度も、一見偽善的にも見えるメッセージ性も、上手く塩梅が取れていて面白かったです。
ジョージ5世が勲章を持って訪れた場面が、ムネアツホロリのピーク。ちょっと態勢に無理はあったけど、その勲章で決着を付けた場面が、すかーっとした!のピーク。ラスプーチンとの対決シーンがエンタメのピーク。てな具合に、たくさんピークが準備されてて、ストーリー運びが戦略的に練られてるところも面白かったです。
良かった!
期待通りに。
いつもお世話になってます。
歴史にお詳しいですね。
さすがのレビュー、勉強になりました。
虚実取り混ぜみたいですが、実はかなり真実も多く、
またイギリスの歴史の暗部にも言及して奥が深かったですね。
貴族は悪いことしてのし上がったろくでなし・・・みたいな所とか。
見応えありました。 直ぐに忘れるんですけれど、為になりました。
ありがとうございます。
bloodさんのレビューを読むのを楽しみにしてました。読んでもよくわからない馬鹿なんですが、はい!はい!と質問したいこと沢山あります。グレシャムさんご提案のように高校生向け、一般人向け何でも企画したいです!
今晩は
レビュー、物凄く、参考になりました。(他のレビュアーの方からもイロイロと教えて頂きました。bloodさん、兵器、武器だけではなく戦争の歴史にも通暁しているのですねえ。参ったなあ・・。
では、又。
私は教育関係者ではまったくないのですが、bloodtrail先生を招いて高校生向けに『戦争からみた世界史』とかの授業を企画したくなりますね。でも、独ソ戦とかでT-37?(で合ってます?)の性能とかに思いっきり脱線したりして😄
賞味期限、一切気にしたことありませんw
味覚は消化器の門番、最後の砦。自分の舌でイケるかイケないか判断出来ずしてどーする?と思っとります。
bloodtrailさんのレビュー、楽しみにお待ちしておりましたぁ♪
私、最初はネタバレギリギリを責めようとハンプシャーとだけ書いてたんですが、だんだん「どーせ通じないよなー」と感じてきて、あとから巡洋艦って書き足しましたw
でもbloodtrailさんならきっと言及して下さると信じてました♪
勲章での決着、胸熱でしたね〜。手を離せば済むことなのに、万感の想いが込められた決着でした。
私、今作は期待せずにナメてたもので、良い意味で大きく期待を裏切られました。
本当に良かったです^ ^