「この世界を、世界の人々を心から救いたいと思えない」バースデー・ワンダーランド ビート板教室5年目さんの映画レビュー(感想・評価)
この世界を、世界の人々を心から救いたいと思えない
人をバカにした作り方をしないという最低限の段階を当然のごとく超えている本作ですが
良質なものを観た感覚が確かにありつつも、今ひとつ面白いと思えていないのが正直な感想です。
この映画を突き放したくも無いが、面白い映画を観た後に起こる、何度も反芻して味わいを深め、その映画の事を考えずにはいられないあの感覚が無いのです。
作品の根底にある作り手原恵一監督の思いや視点が素晴らしいのは良く伝わってくる上に、所々観てよかったと思わされるシーンはあります。
しかし結局自分は、義務感以上の思いでこのワンダーランドを救いたいと思えませんでした…
まず切迫感があまりにも希薄です。
水が無くなってきている。随分と大変な事で決してこちらの世界も他人事ではない事情ですが、セリフとたまあにちらりと写る絵以外に危機感を感じる描写が少ないです。
加えて最大のポイントは、ここに生きる人達が苦しんでいる事が辛い。と思えなかった事が大きいです。
ボタン雪が好きなお爺さんに、村の為にセーターを夜なべして編み上げたお婆さん。正直自分にはこの方々が大事な人々には思えず電車で席を譲ってあげたい他人、というレベルでした…
せめて出発前にあのセーターと同じモノを着て心から温もりを感じる描写やおばあさんと個人的に心を通わせるシーンがあればなどと思ってしまいます。
そんなこんなで冒頭の動機を示すパート以降、主人公さながらどこか気乗りしないままついて行ったら、なんとこの美しい(仮)な世界は王族の犠牲の上に成り立っているという事がさらりと発覚。ここ、実はかなり重要な部分だと思いました。
さながら日本における天皇のようで、急に生々しいリアリティが立ち上り少し期待しかけたのですが…
しかしその問題は何だか余裕のある魔法使い爺さんの文字通り掌の上であっさり解決されてしまいます。
むしろ解決されているのかサッパリと分からないままエンディングです…
あの王子の次の世代はどうなるのでしょうか?
描写はアッサリしていていいですが、ちっとも別れが惜しくないのはなんだか頂けない気がします。
千と千尋のハクと千尋、バケモノの子の熊徹とキュウタ、異世界ものの最後に別れが切ないのは映画を観ていてその世界の人々が身を投げ出しても助けたいと思える仲間に感じられたからだと思います。
それともこの人間関係すらもアッサリとした個人的な感じが良いのでしょうか?それならそれで、中途半端に世界の危機とかを描かずにソフトストーリーに徹して欲しかったとも思います。
ともあれ監督の次回作には期待したいです。
蛇足ですが声優問題は全く気にならないです。
声優の、声優然とした特有の演技の付け方を好む方が多い事には毎度アニメや吹替のある作品のレビューを見ていて驚かされます。