劇場公開日 2019年4月26日

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バースデー・ワンダーランド : インタビュー

2019年4月23日更新
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松岡茉優の秘めたる覚悟、まだ24歳という現実

女優・松岡茉優のまごうことなき強味を挙げるとするならば、それは胸のうちに秘めた、ぶれない意志に尽きるのではないだろうか。遠回りすることをいとわないからこそ、じわじわと獲得していった認知度は、今や全国へと広がった。10代の頃から着実に歩みを進めてきた松岡の、雄弁に物語る黒目がちな大きな瞳が見据える先にあるものは何なのか。「バースデー・ワンダーランド」で6年ぶりにタッグを組んだ原恵一監督との仕事を丹念に振り返った。(取材・文/編集部、写真/間庭裕基)

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松岡が原監督と初めて対峙したのは、日本を代表する映画監督・木下惠介の生誕100周年記念作品で、若き日の木下監督を加瀬亮が演じた意欲作「はじまりのみち」。原監督が初めて手がけた実写作品としても知られている。松岡にとっては、「桐島、部活やめるってよ」で強烈な存在感を放ち、ここからフィルモグラフィーが急激に変動していく過渡期といっていいタイミングだ。その後、しばらく音信は途絶えたが、2017年の第30回東京国際映画祭で再会を果たすことになる。松岡の初主演映画「勝手にふるえてろ」がコンペティション部門に選出され、原監督は特集上映「映画監督 原恵一の世界」で参加している。

「クレヨンしんちゃんと一緒に、蝶ネクタイをした原監督が歩いてきて、第一声が『覚えている?』でした(笑)。忘れるわけがないでしょうと思ったのですが、そんな風に聞いてきてくれる方だからこそ、みんながずっと昔に忘れてしまった気持ちを映画として弾き出してくれるんだろうなって感じたのを覚えています」。

そして、今作では声優として初主演を飾った。これまでにも「ジュラシック・ワールド」「カーズ クロスロード」「ポケモン・ザ・ムービーXY&Z ボルケニオンと機巧のマギアナ」「映画 聲の形」と、洋画作品の日本語吹き替え版やアニメーション作品での声優経験はあったが、今作にはこれまで以上に並々ならぬ思いを抱き、オーディションに臨んだという。

「原監督が『何年も温めてきた作品をいよいよ映画化するから改めて声を聞かせてほしい』とおっしゃってくださいました。そんなにも大切な作品であればこそ、終わった後に『実写で1度ご一緒したことがあるからというのはなしでお願いします』と生意気にもお伝えしました。そうしたら監督も、『僕も松岡を女優として尊敬しているから損はさせたくないし、お互いがいいところで仕事をしたいから、ありがとう。じゃあね』と言って帰られたので、これはないなと。だから数日後にご連絡を頂いたときは、疑心暗鬼になりましたね(笑)」

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そんなとき、凝り固まった松岡の心を解きほぐしてくれたのは、声優の山寺宏一だった。かつて山寺がメインの司会を務めていたキッズバラエティ番組「おはスタ」で、松岡は08年から約2年間にわたり“おはガール”として出演をしていたという縁があり、「ポケモン・ザ・ムービーXY&Z ボルケニオンと機巧のマギアナ」では声優として念願の再共演を叶えた。

「山寺さんにその話をしたら、『アニメーションの監督さんは周囲をすごく気にする方が多いから、自分ひとりになってから考え直し、声を聞き直し、これだ! って思うことがあるみたいだよ。僕も同じような経験があるし』と話してくれました。それでも、やっぱり半信半疑。でも、本番に挑んだら、最初にモノローグを撮っているとき、マイクで『アカネだあ』って言ってくださったんです。そこから『ああ、良かった! 頑張ろう!』という気持ちになれた。監督にそう言ってもらえることほど嬉しいことはないじゃないですか。だからこそ自信を持って臨めたと思います」

今作は、柏葉幸子氏のベストセラー「地下室からのふしぎな旅」(講談社青い鳥文庫)が原作。自分に自信がない主人公のアカネは、誕生日の前日、突然現れた大錬金術師のヒポクラテス(市村正親)と弟子のピポ(東山奈央)から、「私たちの世界を救って欲しいのです!」と懇願され、幸せな色が奪われる危機に瀕した不思議な世界“ワンダーランド”で奮闘することになる……。

松岡が息吹を注ぎ込んだアカネは、保護者役として冒険に同行してきた自由奔放な性格の叔母・チィ(杏)に背中を押されることで、徐々に勇気を持つようになる。松岡の背中を押してくれる存在は、実にバラエティに富んでいる。

「ありがたい事に、たくさんいます。親友の橋本愛さんと伊藤沙莉さんがいいお仕事をしているとき、とても背中を押されます。彼女たちの不器用さを知っているからこそ、『それなのにこんな役をやったんだ! 頑張ったね!』と思うと、私も絶対に頑張らなきゃと思わせられます。そして、『万引き家族』で出会った安藤サクラさんの存在もすごく大きいです。何かあったら絶対にサクラさんの事を考えます。サクラさんだったら、どうするだろう?って。女優さんとして、人間として、生活者として、尊敬しているからだろうけど、サクラさんの事が浮かんでくるんですよね」

そしてまた、3月に出演していた舞台「愛のレキシシアター『ざ・びぎにんぐ・おぶ・らぶ』」でも、芸達者な共演陣から多くの事を吸収したようだ。山本耕史、佐藤流司、高田聖子、藤井隆、八嶋智人らの名を挙げ、「いいお芝居をする、セリフをかまない。それは当たり前なんですね。相手がいかにやりやすく演じるか、予期せぬトラブルがあった時にどう臨機応変に対応するかというのも仕事のうちなんだなと学ばせて頂きました」と振り返る。

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映画はもちろんドラマ、バラエティ、CMなど、あらゆるメディアで姿を見かけるため錯覚しそうになるが、実は24歳になったばかり。それだけに、松岡からはまだまだ無限大の伸び代を感じさせられる。器用に見えて本当は不器用、それでいて好奇心旺盛な“元気印”は、どこまでも貪欲にあらゆる物事を追求している。

「アニメーションのお仕事のなかで、今回初めて受け手でした。主演としてのお仕事は映像とそんなに変わらず、キャラクターが生きるようにやる。他のキャラクターがよく見えるようにやる。ただ、細かいところになると、映像では顔の表情だけでいいものが、映像として表情は出来上がっているから、私は『はっ!』『ごくっ!』など、声に出さなければならない。本来、お芝居で状況説明はしてはいけないのに、それが必要。役の幅が全く違うのです。前、前、横、横ではなく、前後左右すべてやる。アニメーションにも可動域というのがあるんだと気づけたので、もしもまた声のお仕事を頂けたなら、たとえどんなに出番の少ない役であっても、突飛な役であっても、この可動域は生かせると思います」

原監督は、「はじまりのみち」以降の松岡の躍進ぶりを我が事のように喜んでいたと明かしている。それは、10代の頃の松岡を知る者たちにとっては同じ気持ちではないだろうか。松岡が成人式を迎えた日、筆者が貴重な取材の機会を得た際、「自分の将来に対しての責任というものを抱きながら、どういう役者になりたいのかという意志を定めていく1年目にしていきたい」と真摯な面持ちで語っている。その思いは、継続されている。

「最近、もっと自由に考えていいんだと感じるようになりました。見てくださる方に気持ちを届けるということを、自分なりの解釈でやっていいのかなって。正解はひとつではないんですよね。ただ、10代の頃のわたしを見つけてくれた方々に『あれ? 松岡変わったな』と思われたり、がっかりしてほしくはないんです。作品を見に来てくださるファンの方々にも、何かしらの気持ちをお渡ししたい所存です」

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