「プロジェクト進行ドラマ」決算!忠臣蔵 keithKHさんの映画レビュー(感想・評価)
プロジェクト進行ドラマ
嘗てNHKに「プロジェクトX~挑戦者たち~」という、過去の衝撃的事実や画期的な事績をドラマ仕立てに脚色したドキュメンタリー人気番組がありました。一つのことに全力で取組み、艱難辛苦を克服して結果に至る、その崇高で偉大な実話プロセスには、素朴に感動しました。
一つのプロジェクトを立上げ、推進体制を整え、役割分担を決めて推進する、そこで最も重要なのは市場環境の的確な把握・分析と経営リソースの適切な確保と適時投入です。
本作は、最も人口に膾炙した時代劇である「忠臣蔵」に擬えた、主君の仇討というプロジェクトの、メンバーにとって思わぬ形での発端から結果までの顛末を辿ったユニークなドキュメンタリー風ドラマといえます。
現代同様、このプロジェクトは会議室と現場で進捗していきますが、物語は殆ど室内での会話劇で進行し、時代劇らしい剣戟アクションシーンは一ヶ所のみで、集団ドラマゆえに引きショットでのパンが多いので映像としてのヤマ場らしいシーン、即ち盛上りがないままに尺が進みます。
播州赤穂藩藩士=プロジェクトメンバーにとって思いがけない形でプロジェクトがキックオフされたため、藩士一人一人にとっては喪失感、絶望、憤怒、慷慨、不安、戸惑が蟠踞して混沌とした中では、やはりプロジェクトリーダーの度量と技量と人間力がKSF(Key Success Factor)となります。
本作は、大石内蔵助というプロジェクトリーダーの孤独と苦悩と克己、そして矜持を描くと共に、プロジェクトなら当然附帯する予算と予実管理の実像を克明に描いた映画です。恰も現代のビジネス現場を投影したかのように、プロジェクトが推移する紆余曲折とリーダーを中心にしたプロジェクトメンバーの労苦と挫折、信念と主に金に関わる実生活の狭間で起きる悲喜劇が、銭勘定ゆえに露骨に描かれています。
其処が、日常感覚として身につまされるので、映像にあまり抑揚がなくても話に惹き込まれます。
これまでの「忠臣蔵」が、日本人の心象原風景である生死の美学の原点を抉り出すというコンセプトで捉えられていたのに反し、本作には情緒的倫理的な視点は一切なく、従いプロジェクトの結果であるはずの”討ち入り“のシーンもなく、勘定元帳の帳尻が違算なく無事収まったことでファイルがクローズされます。
また主役のプロジェクトリーダー:大石内蔵助は、極めて人間臭く、高潔でも清廉でもなく、豪胆無比でも沈着冷静でもない、寧ろ好色で強欲な面が強調されます。伏見橦木町の遊郭のシーンは本作の中で大きなアクセントとなり秀逸です。
つまり到底完全無欠のヒーローとは描かれておらず、プロジェクトオーナーである瑶泉院に只管従順なのも、ビジネスルールで捉えれば至極当然でしょう。
余りに数多くのメンバー毎の悲喜劇は、芸達者の役者連の好演技もあって笑い・泣き・(手に汗)握るもので、ヤマ場が少ないにも関わらず約2時間をスクリーンに惹きつけられ大いに満足するものではありましたが、時代劇ファンとしては、義理と人情を経糸緯糸に紡ぎ、チャンバラ活劇をもっと見せてほしいとも思うしだいです。