「セカイ系と新海作品に新たな解を提示した会心作」天気の子 仮名手本さんの映画レビュー(感想・評価)
セカイ系と新海作品に新たな解を提示した会心作
ところどころで既に語られていますが、いわゆるセカイ系と呼ばれる作品群の中で、新たな解を示した作品だと思います。
セカイ系の1つのテーマとして、「世界か、彼女か」を選択することがありました。そして、これまでの作品は、世界のために犠牲になることを選択する彼女の決意を主人公が受け入れるもの、選択を放棄するもの、世界のルールを変えるような第三の解を提示するものである場合が多かったと思います。
その中で明確に、「世界ではなく、あなた」を、荒削りな若さで選択するこの作品の解はとてもカタルシスがあります。「君の名は。」と異なり、全編の大半で描かれる、猥雑で魅惑的で、貧困で、重苦しい、リアルな世界としての東京に対し、2人の選択により海に沈んでしまった東京。美術、演出も相まって、後者に美しさを感じてしまいます。誤解を恐れずに言えば、こんな東京、沈んでしまえ、という気持ちが自分の中にあるのでしょう。「江戸はもともと海。元に戻っただけ」という台詞や、「人間は自然の中で生かされている存在。その尺度も相対的。昔の人はそれが分かっていた」という台詞も、考えさせられました。
上記のテーマからするとすごく微妙なところなんですが、帆高くんが、「思いやり」はある子なんですが、周りの人間への「感謝」が最後までなかったのは、少し気になるところでした。周りの大人も最小単位としての社会なので、テーマとしての対比はわかるのですが、ところどころで周りに助けられていることによる、「その子」を選ぶことへの葛藤があると深みが出たと思います。(ところどころでの新海監督の発言を見ていると、それも計算尽くという感はありますし、この感想も大人ゆえ、なのだと感じます)
もう一点、新海誠監督の新たなテーマに挑むという強い意志を感じられたのは、時間や距離ではない2人の関係を描いたこと。これまでの作品は物理的、空間的、時間的な距離が一つのテーマでした。句点付きの「君の名は。」は、これまでの集大成だと思いますが、今作では荒削りな2人の主人公とも相まって、新たなテーマを描く、という新海監督の思いが強く感じられました。
こうした感想を感じたのも、圧倒的な映像美による、透明感のある雨の世界に惹かれたからだと思います。言の葉の庭同様、情景描写は「雨が暗く、晴れが明るい」、という固定概念を壊そうという意志を感じました。そして時期的にも、それが表現できる日本アニメーションの力を改めて感じました。この映画の「大丈夫」という言葉に強く励まされ、明日からの毎日を頑張ろうと思います。