「超正統進化した新海誠の世界」天気の子 真中合歓さんの映画レビュー(感想・評価)
超正統進化した新海誠の世界
「君の名は。」を超えてきました。個人的には今まで観てきたアニメ映画の中でも最高に面白い部類だったかな。作画の綺麗さと繊細さは勿論の事、相変わらずテンポも良いし曲もバッチリだしで、大衆受けを狙った作品作りも本当に上手いなと笑。もうなんだかよく分からないけど感動させられるような。いやなんだかはよく分かっているんですけどもね。
一方で批判が多いのも確かに頷ける。が、はっきり言って的外れな物ばかり。まずこの作品の大前提として、主人公は未熟な16歳であり、ヒロインはまだ中学生という事を忘れてはならない。言うなれば「ぼくらの七日間戦争」や「スタンド・バイ・ミー」のような雰囲気に近い。『子供がやっている事』という前提が理解できている人といない人とで、意見がはっきりと分かれる傾向が有るのかも。
さてさて物語は離島から家出してきた少年が東京のと言うよりかは大人社会の洗礼を浴びつつ、世話好きなおっさんに出逢ったり同じような境遇のヒロイン達と出会ったりする話である。冒頭からバニラトラックや風俗絡みの話等、アダルティな要素が多く挿入されている事が「君の名は。」と大きく違うと言える点だろう。
つまりこの作品は子供達が主人公ではあるものの、子供向けな世界観で進行する訳ではなく、大人社会に放り込まれた子供達の話だというメッセージが、冒頭から示されていたように感じる。
もう一つ「君の名は。」と大きく違うのが(比較論評のつもりではないが)、今作では特に予想を裏切るようなドンデン返し的展開は無い。「君の名は。」では三年のずれが有ったり実は三葉が隕石で~というビックリ要素が有ったのに対し、今作は割と予告編からの予想通りな展開だった。
話題を戻して主人公は16歳の男の子。彼は事情こそは明かされていないが、何かしら有って地元を離れた家出少年である。そして東京で世話好きなおっさんや魅力的なヒロイン達と出逢い、人と人との愛や絆のようなものを学んでいき、徐々に活力を取り戻していく。
彼の行動原理には思春期真っ只中という下地が有り、その上で展開されていく事を踏まえて評価しなければならない。結果的に東京は壊滅して日本経済は間違いなく甚大な被害を受けているのだが笑、それでも彼は初めて経験した『恋』というものに、全力を捧げたのだ。
対して今作のヒロインは心情描写が少ない。ので、悪く言えばご都合的なヒロインに見えてしまえない事もない。しかし、入れ替わりや愛がもっと強いテーマだった「君の名は。」に対し、今作ではどちらかと言うと主人公の『成長』がメインに置かれていたように感じる。もっと言うと主人公のエゴが強く作用していると言うか、主人公の世界観で話が進むので、その辺が受け付けない人がマイナス評価を押しているのかもしれない。
ここで物語の展開をざっと分けてみると・・・・・・・・
主人公が東京暮らしを始める→ヒロインと出逢う→ヒロインが特別な能力を持っている事を知る→それを使って特定の場所を晴れにするサービスを初めて大儲け(?)→拳銃絡みの事件で追われる身となる→力を使えば使う程ヒロインが代償を負っていた事が判明→東京中を晴れにする代わりにヒロイン消滅→主人公が救出→数年後に再会してエンド・・・といった具合である。
主人公がヒロインと出逢った段階でヒロインは特別な能力を得ており、この時点で主人公とヒロインはある意味同じ立ち位置に居るとは言えない。「君の名は。」では瀧が三葉をリードするような立ち位置だったのに対し、今作では基本ヒロインにリードされる形である。でも実は年下だったりとそこもお涙頂戴ポイント。
ので、主人公にとって今作のヒロインはある種『女神』のような存在だったのだ。それはもう信仰しているといっても良い。だからこそ彼女の為に国家権力にも世話になったおっさんにも逆らって我武者羅になれたんだし、最後には助け出す事も出来た。なんで鳥居の所に行ったら雲の中に飛べたの?だって?そんな細かい事を気にしちゃいけない。陽菜を愛していたから、助けたい気持ちが強かったから飛べたのだ。それ以上でもそれ以下でもない。
最後に陽菜が祈っていたのも、能力を失った今でもまた力が使える事を信じて、又は東京が晴れる事を信じての行動だったのだろう。ああやって毎日あの場所で祈っていたのかもしれないと思うとまた泣けてくる。。。
ここからは批判の色も強くなる論評にはなる。まず『拳銃』というアイテムの存在。確かに内容とのギャップにはなっていてまた面白い要素だった事は認める。しかし作品の内容的に異質な存在だった事は否めない。終盤の展開では主人公の想いの強さを表す目に見える道具としての役割を発揮していたが、それ以外の場面ではやはり異質だった。
そもそも天候を操れる(雷も起こせるので晴れ限定じゃない?)人間なんて居たら何かしら世界的な組織に目をつけられてもおかしくはない。だが、主人公とヒロインとの恋愛模様に超常的な空の向こうの存在や社会的なメッセージ等も含めたら、挿入する暇が無かったのではなかろうか。だからこそ、変わりに『拳銃』というアイテムを入れてそれを元に警察を主人公達の弊害とした。まあ家出少年少女という要素も有るので対警察&児相のような構図でも問題は無いか。
あとはやはりヒロインの心情描写の少なさが「君の名は。」を踏まえると物足りなく感じる要素の一つかなあと。勿論今の設計でも全く問題は無いんだけど、もうちょっとヒロインがどう思っていたのかを少しでも良いから描写してほしかった。これだと実は主人公に同情しての友情的又はお姉さん的な目線で主人公と向き合っていたのではないか?と、そういう解釈も出来そうな気がしてきて少し落ち着かない。
批判色の強い論評はこれくらいにしておくとして、新海誠監督。やっっぱり本物ですね。引き込まれてかつ共感出来る設定。そしてそこからの超予想外な展開と感動。魅力的で全員に好感が持てるキャラクター達。最高の音楽とその挿入タイミング。そして余韻・・・・・・。
今間違いなく日本最高のアニメ監督でしょう。次回作も期待しております!