「最愛の人を人柱にする事を強いられたら、あなたはどうしますか?」天気の子 平 和男さんの映画レビュー(感想・評価)
最愛の人を人柱にする事を強いられたら、あなたはどうしますか?
最初に申し上げるが、私は本作を「期待を裏切らない作品」であると確信する。
自分の中でのベスト1である『君の名は。』と順位を入れ替えるには至らなかったが、
それでも、それに迫る出来である事は間違い無い。
本作には、既存の新海誠作品から踏襲してきたテーマやモチーフが多々見られる。
「思わず祝福したくなる様な若き男女の愛」
「その愛を阻もうとする理不尽や不条理」
「少年少女にとって、時に敵や障害となり、時に味方となる大人達(※)」
「大きな災いに抗おうとする人々のつながり」
「ドラマを引き立てる小道具や舞台装置としての、
SF的あるいはファンタジー的ガジェット」……等々。
(※本作は前作と比べ、「味方になる大人」が多いかもしれない。
須賀のおっちゃんとか、夏美さんとか。
前作のヒロインに至っては、何気に、作中での重要アイテムを本作の主人公カップルのカタワレである帆高少年に手渡す役割を担っていた。
心にくいバトンタッチと言える)
「芸術家はデビュー作で追い求めたテーマやモチーフを生涯追い続ける」とはよく言われる事であるが、
それは新海誠監督とその作品群にも当てはまる。
ただ、本作においては、既存作品では隠し味程度であったと思われるテーマやモチーフを、意図的に強く前面に出している様に思われる。
それは、このレビューの標題に書いた通りそのままの事だ。
『最愛の人を人柱にする事を強いられたら、あなたはどうしますか?』
前作では、不思議な能力を持つヒロインを救おうとする行動そのものが、天災に抗おうとする人々の営みと結びついていたが、
本作では、不思議な能力を持つヒロインを救おうとする行動そのものが、何百万人もの人々にとっての災いに結びついてしまっている。
その点が、前作と本作とで真逆であると、私は思う。
このレビューを書いている時点では、私は他の人のレビューを読んでいない。
しかしながら、本作と新海監督を貶めるためだけにレビューを書く様な輩であれば、
功利主義的観点から帆高少年の選択を非難し、本作をこきおろす糸口にしようとするであろう事は、想像に難く無い。
功利主義、結構である。多くの局面で、概ね正しい。
しかし、飽くまでも功利主義を貫こうとする者は、
「お前の最愛の人が消えてなくなれば、数百万人もの人々の救いとなる。だからお前は最愛の人を手放せ」
と言われて、即座に従うのであろうか?
「従わない」のであれば、その者を「似非功利主義者」と呼ばざるを得ないし、
「即座に従う」のであれば、その者の愛は実は大したものではなく、従ってその者にとって「最愛の人」は初めから存在しない、と結論付けざるを得ない。
(そもそも『愛』とは狂気に近い感情であり、理性と激しく対立する事もままあるのだが)
本作で帆高少年が強いられた選択は、「トロッコ問題」の一類型と言える。
トロッコ問題に明確な正解は無い。トロッコ問題は、それに答える事よりも、主観的な選好と功利主義的な判断とのせめぎあいについて研究するツールとして捉える事の方が、より重要であると思う。
それはさておき、私が帆高少年と同じ状況に置かれたら、ヒロインである陽菜を救う選択をするのではないかと思う。
私には、功利主義的判断を徹底できる自信が無い。
また本作は、「人柱」としてのヒロインの存在を通して、
「手っ取り早く「人柱」や「スケープゴート」といったものを求めたがる人間の心理」について疑問を投げかけていると、私は思う。
平 和男さんへ
いやいや、もしも大江戸水没なんて事態になったなら、それこそ先祖代々の江戸っ子の為にも、意地でも大江戸復活ですよ!技術力は、そんな時に発揮してこそ意義が有ります。
首都機能の分散は、それとは別に進めるべきだと思っています。
bloodtrailさん、共感の返信、ありがとうございます!
>首都水没くらい
流石にこの言葉を現実世界で
先祖代々の江戸っ子に面と向かって言うのは憚られますが、
「天気の子」世界の人ならば、「常雨」すら恩恵に変えてしまうかも、ですね。
これを機に首都機能分散を実行に移したり、
「常雨」を逆手に取って東京から地方へ「水のパイプライン」を引いたり。
(テッシーが家業の事業規模を大きくしていたら、この事業に参加するかも)
東京は「水の都」として認知される様になるかもしれません。
(天体落下と違って、対策を取る時間は比較的長いですし)
平 和男さんへ
賛否両論の「否」が上がると言う事自体に、軽く違和感を覚えている者です。だから、平 和男さんのレビューには、激しく共感を覚えます。「人柱になった娘」の悲哀を物語にする時代じゃないだろうってのもありますが、「誰かを犠牲にしながら安定化している社会」に対する異論、ってのはないのかよ、って言いたくなるんですよね。
首都水没ぐらい、乗り越えられるやないですか。コストは掛かるけど。人類は、いや私達日本人・私達の先祖達は、絶望的な困難を何度も乗り越え復活して来たんですから。むしろ、水の都と化した東京の風景は、復活させたる!と言う「闘魂」に火を点けてくれるんですけどw