「新海誠、歴代で最もエンタメ性の高い作品(後半ネタバレ考察)」天気の子 s kさんの映画レビュー(感想・評価)
新海誠、歴代で最もエンタメ性の高い作品(後半ネタバレ考察)
新海誠の作品は、ほしのこえから全作観させて頂いているが、本作がエンタメとして一番完成されていたと感じる。
まず、
本作で、放映前に散々酷評されていた本田翼の声だが、新海マジックに掛かり、見事に作品に溶け込んでいる。
全編を通して、
話の伏線や、ヒントの貼り方も綺麗なので、観ていて飽きもない。
何より、主人公のガキっぽさを除き、出てくるキャラクター全てに愛しさを感じる。
前作以上に曲との親和性も高く、音楽に語らせるシーンは、キャラ表現を一段と魅力的なものにしてくれた。
前作からのファンへのサービスも多めなので、「君の名は。」を見ていない人は一部カット割りに違和感を覚えるかも。
是非未視聴の方は観てから劇場へ。
16歳の少年が、自分の意志で選ぶ事の、強さ、弱さ、愛しさ、その全てと、結末を、
劇場で観て欲しい。
以下、ネタバレ考察に入ります
☂
☂
☂
☂
☂
☂
☂
本作は、
今、この瞬間に、選択する事の大切さ
を描いているように感じました。
帆高のyahoo!知恵袋に頼るところは、優柔不断な少年そのものだ。
そんな彼が、全てを捨ててでも、今この瞬間に彼女を選ぶ。
彼の人生で、最も優先するべき存在と出会えたからこそ。
だからこその、選択の価値が胸を打った。
何よりもキーマンとなるのが、須賀圭介の存在。
須賀は、過去に妻を失っているが、指輪の描写や流した涙、帆高への言動から、妻が巫女になってしまい助けられなかった(記憶は事故として処理されている可能性あり)事が推察される。
そこから、陽菜を救えなかった穂高が大人になったメタファー→須賀と捉えられます。
今、この瞬間の幸せを望み、願い、選ぼうとする帆高。
過去に選択できなかったまま大人になってしまった須賀。
だからこそ、須賀は帆高に託し、選択をし直す。
彼が語った「優先順位」と言う言葉は、未来の幸せを願っていたり、大衆の幸せを願っているが、今この瞬間の幸せを切り捨てる事も多い。
だからこそ、帆高の選択は、甘く、浅く、それでも愛しい。
今、この瞬間の幸せが続く事が、未来の幸せにも繋がると信じている。
その思いを選択するのは、歳を重ねる事に、躊躇ってしまう。
また、須賀の妻が人柱になっているのだとしたら、あの世界は定期的に人柱を捧げなければ、天の気分を保てない程の狂った世界になっていたと思う。
天の気分としては、悠久の時の中ではこの期間は雨が降る事が、普通の事だったのかも知れない。
彼女や、同様の犠牲を払ってでも、今までの世界を保つ事の方が「正しい」のだろうか。
ラストシーン、陽菜と再会をするシーンで、彼女は祈りを捧げている。雨は止まない。巫女ではなくなっている。
彼が世界を変えたのか。戻したのか。元々狂っているのか。
最後の結末こそが、世界の正しい在り方だったのかも知れない。
全ての責任を感じつつ、それでも彼女がいる世界を選ぶ。
その選択が、帆高にとっての「正しさ」であり、世界と自分への肯定だ。
だからこそ最後の「僕たちは大丈夫」の言葉は胸を打った。
800年も前からの民間伝承としても語り継がれる「天の巫女」
その間にも、人知れず多くの巫女が人柱になっていたのだとしたら。
その世界の方が正しいと感じる事は、気付いた瞬間に出来なくなる。
既存の価値観からの大衆的な平和や正しさではなく、
それぞれの意志と幸いこそが、僕らの世界を作る。
君の名は。と比べられる事が多いが、
救うの視点が違い過ぎる為、比べられる話ではない。
ただ、このエンディングを描く事は、多くの批判を受ける可能性がある。
それでも、この「選択」をした主人公、監督、制作関係者の方へ、最高の賛辞を送りたい。
個人的には、夢落ちのようなエンディングにならず、選ぶ事を恐れなかった事が本当に素晴らしい。
全てのラインをたどりながら、何度も鑑賞したいと思う。