「ファンタジーのようで、ファンタジーではない。強烈なリアリズム」天気の子 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
ファンタジーのようで、ファンタジーではない。強烈なリアリズム
興収250億円という大記録を打ち立てた、「君の名は。」(2016)の新海誠監督の新作。
まだ未見の方、2度目の方には、"ぜひIMAX大画面で"をオススメしたい。Blu-rayパッケージや配信、テレビ放送になってからでは、もう見られない。
新海誠アニメ(COMIX WAVE FILM)は、光と影のコントラストを特徴とする主観的な印象風景が、"大画面"によく似合う。そこにアテ書きされた野田洋次郎(RADWIMPS)の楽曲が化学反応を起こし、テレビサイズやタブレットでの感動は、サイズに比例して増幅する。
今回、「天気の子」は通常版とIMAX版がある。前作「君の名は。」のIMAX上映は、公開5カ月後に2週間限定で行ったが、正式なサポートではない。
初日は話題の池袋グランドシネマサンシャインで、"IMAXレーザー/GTテクノロジー"の超大画面。2日目は通常版をTOHOシネマズで鑑賞した。
予告編やタイアップCMで多用されている、「グランドエスケープ」(RADWIMPS featuring 三浦透子)がこの作品のキモである。劇中のシーンもここがクライマックスであり、ぜひともIMAXスクリーンで"光"を、"雨"を浴びてほしい。
さて、美しいシーンとウラハラに、これまで以上に、具体的な街の風景と、タイアップ商品の描き込みが激しい。主な舞台は、新宿・歌舞伎町と田端周辺で、代々木、銀座、六本木、台場・有明エリアなどが出てくる。
本作はファンタジーのようで、ファンタジーではない。強烈なリアリズムである。そして「君の名は。」からの過剰な期待と批判にさらされる。だからこそ、新海監督はお決まりのエンディングを避けている。そこが面白い。
テーマは近年の異常気象と、歴史的な神事・言い伝え。地球温暖化によると考えられる高温、豪雨、爆弾低気圧などの自然現象に向き合っている。
日本人は大震災で自然現象の時間単位が"数百年"であることを学んだはず。
それなのに、つい最近でも天災現場のインタビューで、"生まれてから何十年も住んでいるけれど、初めて・・・"というマヌケな発言を耳にする。大自然の前に、人間の100年未満の経験や、気象庁データの150年なんてものは無意味だ。
現代の世界的な異常気象は、人類の歴史的な営みが影響している。それは多かれ少なかれ認めるところだろう。そんな時代に生まれてしまった若い子供たちにとって、それは自分達の責任ではない。
少年・少女は戦う。敵対する大人、常識的な社会規範に向かって、理想と考える小さな幸せのために。けれど大きな壁に跳ね返される。
異常気象に翻弄される登場人物たちが、平穏無事な環境に戻ってハッピーエンド・・・とはならないのだ。東京は雨が降り続け浸水していく。身も蓋もない話だ。
それは、ある意味で"あきらめ"に近い、"現状容認"である。
主人公の少年・少女は、どちらも恵まれた境遇ではない。"経済格差"も世界の潮流である。貧乏で、将来の夢も描けず、奇跡的なラッキーが訪れるかと思いきや、結局は、現状維持というリアリティである。
そんな中にも小さな愛や幸せはある。これをどう受け止めるかは、人それぞれ。
ちなみに劇中の描き込みは、観る回数を重ねて楽しめるもの。カメオ出演が至るところにある。
ソフトバンクのTVCMで、お父さん(白い犬)が、本作にカメオ出演していることが紹介されているが、それが2箇所ある。
さらに嬉しいのは、主人公の帆高と陽菜が"お天気"の仕事で訪れる、おばあちゃん(立花冨美)は、「君の名は。」の主人公の(立花)瀧くんの祖母の家だ。そこに瀧くんが出てきて、帆高と陽菜と会話する。
また帆高が、陽菜の誕生日に指輪を買い求めるシーン。店頭で応対する女性は、宮水三葉だ。さらに三葉の同級生、勅使河原(テッシー)と早耶香がエレベーターの中にいたり、フリーマーケットのシーンにも出てくる。
他にもエンドロールには、宮水四葉の名前もある。もう一回観て、高校生になった四葉を探さなければならない。
(2019/7/19/グランドシネマサンシャイン/ビスタ・IMAX)