劇場公開日 2019年7月19日

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「清々しいほど自分勝手な主人公」天気の子 naticさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0清々しいほど自分勝手な主人公

2019年7月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

興奮

知的

監督が雑誌のインタビューで、君の名は見て怒った人たちがもっと怒るような作品にしたい。遠慮とか慎重さとか、調和を一切気にせず自分の命や気持ちを使い切る少年少女を描きたいと答えてたけど、言葉通りの作品になったなと。

この映画のテーマのひとつとして、反抗する子供と、それを抑圧する大人の対立みたいなのがあると思う。

誰しも子供の頃は夢を持っていて、好きなものは好き、嫌いなものは嫌いとはっきり自分の気持ちを言う。例えそれが原因で軋轢や対立することになっても。
でもそれが大人になるにつれて、言わなくなる。たぶんそれが現代社会において求められる正しい大人の姿。

けっして間違っちゃいない。子供じゃないんだから、社会のルールを守ることも、人間関係をみだりに乱すような言動をすることも。

でもこの作品の主人公の家出少年。大人の対応とか生き方みたいなのを徐々に学びだす年頃の16歳の少年は、大切な誰かのために社会のルールとか常識とか、大人に対して全身全霊で抵抗してみせる。

たぶんこの作品を見た"大人"たちにとっては、とても理解できないような行動を主人公がしているように感じる人も多いと思う。もはや、やってることは犯罪だしね(笑)

別に大切な誰かのためなら何してもいいとかそういうことじゃなくて、大人たちが定めた"正しい"社会の常識とかルールとかすっ飛ばしてでも、誰かのために、何か成し遂げるために自分の命と気持ちが空になるくらいに使える。
そういう自分勝手な人間の生き方みたいなのを、新海監督自身が見たかったし描きたかったんだと思う。

インターネットで簡単に良い情報も悪い情報を得られるようになったからなのか、少子高齢化やら年金問題、貧困層の増大や国際情勢の悪化で希望溢れる未来みたいなのがなかなか見い出せない世の中のせいなのか、ここ最近大人にも余裕がなくなってきてると思う。

この天気の子で描かれる雨が降り続ける光が差さない東京は、まるで今の日本の社会を反映しているようにも感じられた。

しかしそれでも、大丈夫なんだと。この狂った不自由な世界でも、僕たちは自由で生きて新たな可能性を選択していくことができるんだと。

エンターテインメントのド直球のようでありながら、この作品は新海誠監督の人間賛歌の物語なのだと思う。

いろいろ賛否両論あるだろうし、明らかに若者向けの作品だとも思う。
毎日"大人"として生きている自分も含めて大多数の人にとっては納得できないことや、不満もたくさん出てくる作品なのかもしれない。

ただそれでも自分はこの作品にわずかながらも、希望みたいなのを見いだすことができた。
見て損はしないなんて軽々しく言えないけど、ちょっとでも気になるのなら劇場に足を運んでみては?

ただ犯罪行為を助長する描写や反社会的な行動をするような作品が嫌いで明らかにその類の娯楽作品見るのには、向いてない人は見ないほうがいいかもね。

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natic