「世界の形を変えるほど、醜く綺麗な愛の物語。」天気の子 鐘崎裕太さんの映画レビュー(感想・評価)
世界の形を変えるほど、醜く綺麗な愛の物語。
▼今作は、天気でも雨の話でもない
始めに今作品は「天気の子」と天候をテーマに謳っている
ように見えますが全く違うように感じました。
今作は、狂気的なまでの愛の物語です。
思春期絶頂の家出少年、帆高は、東京で出会った晴れ女
陽菜に心惹かれ、彼女を求め続けます。
彼の、全てを犠牲にしてでも彼女との再会を願い
行動する様は時に利己的で、破壊的で、人によっては
嫌悪感すら抱くでしょう。
新海さんが46歳にしてぶつけた強烈すぎる純情は
チャゼル監督「セッション」の狂気を彷彿とさせるほど
強烈なものがありました。
故に、今作品は全くマス向けでなく、意見は二分されるでしょう。
それほどの思春期の号哭を、46歳にして描いた新海さんに
ほとほと驚きです。
RADのED「愛にできることはまだあるかい」にあるように
今作品はひたすら愛に焦点を絞って描かれた純粋無垢映画です。
▼前作「君の名は。」と比べて
ほぼ同じ構成方法ですが内容は全くの別物です。
今作はリア充とは真逆の泥臭さがあり
天気においても、ある種残酷に描かれています。
そしてコメディやサプライズの多さが今作の特徴の一つで
重いトーンを上手く中和していると思いますが
逆にメリハリがなく冷めてしまう展開も多々ありました。
またストーリー展開が個人的に今一つでドラマも少なく
カタルシスもあまり感じませんでした。
映像と音楽の高揚感は流石ですが前作ほどの衝撃は無かったです。
▼思春期の時間、甘さ、純粋さ
中だるみが非常に辛くて何度も俯いてしまいました。
展開にメリハリが無く、ドラマも浅く
同じような日常シーンが中盤何度も続くので心配でした。
さらに思春期の少年少女の行動には浅はかな部分が多く
故に滑稽で冷める部分が多々ありました。
(俺は、何を見せられてるんだ・・?的な)
しかしその妙にくさい空気感に思春期「らしさ」を感じ
どこか懐かしくなりました。
本田さんの声はむしろ良い意味で個性的で生々しく
作品を明るく照らしてくれる良い響きがありました。
また今作は大人VS子供のような対立構造が際立っています。
世界を犠牲にするのか、一人を犠牲にするのか。
大人と対立し、ひたすら反抗し続ける帆高は
最終的に、世界の形を変えてしまうほどの
大きな選択をするのです。
終盤にかけての帆高の形相は、利己的で滑稽に見えつつも
大人の僕に、何か忘れかけてた
純粋さを訴えかける何かがありました。
そしてキャラクターがとても生々しいです。
何も持たない思春期の子供、何かを背負った臆病な大人。
残酷なまでに対比され、お互いに感化されて変化します。
それぞれ毒があるので、受け入れられない方も多いでしょう。
今までにない汚さが混じった今作は
ディープでありつつも普遍的な作品に仕上がっています。
▼全てを吹っ飛ばす、狂気的なまでの「愛」
余りにも破壊的で純粋すぎる愛をぶつけられて
僕らはどう受け止めるのか。
気持ち悪い、恐ろしい、残酷、カッコいい、勇敢等、自分勝手等、、
新海さんが言っていた、意見が分かれる映画になるとは
こういうことだと思います。
正直僕は最初、気持ち悪さや嫌悪感を覚えましたが
次第に染み込んでいくように帆高の気持ちを思い出し
あぁ年をとったがまだ忘れてないなぁと感じました。
色々書きましたが、今作は終盤のこの一言に集約されるでしょう。
「もう一度あの人に、会いたいんだ!!!!」
異常気象なんか、晴れにしたいとかどうでもいい!
一生雨が降り続いても、陽菜に会いたい!
敷いてきた伏線を全てぶん投げるようなラストシーンは
もはや清々しいですよ!もうビックリです。
いやー本当に新海さんの純粋さを
エンタメとして擬人化したような作品です。
もっと書きたいことで溢れてますが
次は小説を読んで再び映画を見たいと思います。
是非映画館で鑑賞することをお勧めします。
家族でも友達でも、特にカップルでも
オールレンジで見れると思いますよ。