「これは報酬系 或いは の物語 怪作」天気の子 余 疏涅さんの映画レビュー(感想・評価)
これは報酬系 或いは の物語 怪作
座席番号E-21
これは報酬系 或いは の物語
昔々、悪太郎に人柱としての巫女を奪い返された龍は怒り狂いそのまま雨を降らせ続けて人間が開発と干拓によって切り開いた血と汗と涙を吸った大地の全てを奪い海に戻してしまいましたとさ。
どっとはらい 世は事もなし
これは人間の持つ最愛の人へのアガペーと同じ位に人間に奪われた海を龍・天が愛していたという事になるのでしょうか。
それとも800年前に天と一体化した巫女が自分には居無かった(或いは自分よりも世界を選んだ)トリックスターとしての主人公の存在に嫉妬していたからなのか。
この物語の最大テーマとしては人が自然を奪った時の天の怒りや悲しみ、それは丁度人間が家族や恋人を奪われる時の怒りや悲しみと全く同じ想いなのである。
そこに怨霊は生まれこそすれ和解などありえないのである。
ただ人と自然との理性を超えたただならぬ絆とも契約とも呼べぬおだやかでは無い一つの危うい『習慣』が横たわっているに過ぎないのだ。
そういう事か。
日本人にとって自然は『鏡』なのだ。
今時古い様で斬新である。
今後多くの作品に影響を与えるであろう素晴らしい着眼点である。
だが『それだけに』それだけになっている。
活劇が弱い。
何も悪の秘密軍団など用意せんでもいいがそこはもう少し何とか出来た筈。
いや、冷たい雨の様な東京そのものが無機的で空っぽなニュートラルで中間色の富裕な抜け目が無い極東の一角に或る経済大国と言う巨大な怪物だったのかも知れない。
誰が東京なんぞ救ってやるか!これはルサンチマンの物語。東京の愛への絶縁状としてのメタファー。
だが、世界の姿を変えた?何言ってんだコイツ?そんな事より早く会いに行け!と大人達もタダでは転ばない。神が居なくとも半身を打ち砕かれようともこの不敬な不夜城(むてきなゆうえんち)の大人達は不死身なのだ。
結局あの水害で何万人死んでいようが災害の原因を調査するアニメや小説に付き物な秘密結社も正義軍団も一切存在しない『でも、そんなの関係ねぇ!おっぱっぴー』の現実同様の世界であろう。
兎に角やつらは不死身なのだ。
鏡を打ち砕いた子供は自分が大人になったかどうか確かめる術を失った。
倫理とロジックを超越し子供が子供を育てるネオテニー文明だから。
最早敬神も神殺しすらも忘れた神の力(愛)を得ずとも良い大人達へのささやかな反乱だったのだ。
家出の原因などの主人公のバックボーンが不明瞭と言う批評は最も愚かな部類のものであろう。
描くべき細部はそこではない。
ニュースを見た事の無い人間なんか居るかね?きっと心当たりがあり過ぎて後ろめたいのだな(笑)
とにかくその斬新さに驚いた。
良い点
・最後のデブ猫はGJ
・青春ドラマとしては非常に良く出来ています。
・東京という街の雰囲気を下町からビル街まで物凄く上手く表現出来ている。
個人的に見覚えのある風景がいっぱいあった。
いい意味で何度もデジャブがあった。
悪かった点
・猫がちょっとね。デフォルメするならもっと極端でも良かったのでは?
・あと、折角のベテラン刑事さん達がちょっと影が薄いです。
リーゼントにすりゃいいって話じゃ・・・『名推理!』ってシーンを少し入れても良かったかも。
・伏線が弱い様な気がする。着眼点だけで映画を作っちゃラメ。
これは個人的な提案なんですが巫女ちゃんが龍・天と一体化し消えていく過程で反対に晴れ空の象徴として地へと受肉された『何か』を視聴者に分かりやすい伏線として物語内に用意すべきだった。
晴れによって人類が得る恩恵を象徴する何かを。
それと巫女のどちらを選ぶのかを無意識の内に提示して主人公に選ばせる。
巫女が地に戻った時にそれが綺麗さっぱりと無くなっていなければならない。
人間ドラマである以上は晴れだけでは弱い。
酷な事を言うが切れた首飾りだけではちょっと伏線が弱過ぎる。
天はもっと人間に示唆を与えている様に作らないとダメ。
例えばベタだが主人公が大好きなアイドルが消滅してるとか。
・あと、チラリズム愛人には眼鏡が絶対必須だと思うゾ(ハイルメガネっ娘!!!!!!!!)。