「かつて感じたことのない切なさに彩られた完璧なSF思春期ジュブナイル」HELLO WORLD よねさんの映画レビュー(感想・評価)
かつて感じたことのない切なさに彩られた完璧なSF思春期ジュブナイル
2027年の京都。そこでは無限の容量を持つ量子記憶装置アルタラを使って京都に起こった過去の全事象を記録する事業”クロニクル京都”が進められていた。読書好きで内気な高校生堅書は道端に現れた三本足の奇妙なカラスに持っていた本を奪われて後を追うと、そこに現れたのは奇妙な男ナオミ。ナオミは自分は10年後の未来から来た堅書本人で、クラスメイトのエキセントリックな美少女瑠璃と堅書は付き合うが彼女は事故で死んでしまう運命になっているのでそれを変えたいのだと告げる。半信半疑ながらナオミに協力することにした堅書だったがやがて自分が住んでいる世界の秘密を思い知らされる。
主人公がイーガンやディックを読み込んでいるガチのSFファンという設定からして数多のSF作品へのオマージュが溢れている。そもそもカラスを追うとそこにはというツカミからして『マトリックス』。モーフィアスでありネオである主人公がトリニティを救う話と言ってしまうと語弊がありますがまずはそんな導入。イチイチ選択を迫られたネオに対してこちらはとにかく与えられた答え通りに行動し、ナオミが現れたことで既に書き換わってしまったシナリオにどう臨機応変に対応するかというスリルを追っていくうちに『マトリックス』が到達できなかった地平までたどり着いてしまい、そこからの展開は今まで観たことのない切なさに満ちていて、胸が締めつけられる結末の余韻に滲むセンスオブワンダーに涙が溢れました。完璧な思春期ジュブナイルです。
各所に様々な含みを持たせた世界観の中を駆け抜ける主人公達の姿にかつての自分を重ねて、人生をやり直すことを夢想する下卑た大人にとってのファンタジーとしても一級品、個人的には『天気の子』よりこっちの方が好きです。