「映画も続編もなかったあの頃に戻りたい」劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD ryoさんの映画レビュー(感想・評価)
映画も続編もなかったあの頃に戻りたい
正直に言えば、映画を見る前に戻りたいです。
この映画には、机上で夢を語り百万人どころか誰一人として幸せにしない、冷たい牧くんがいて、あんなに想いあって結ばれたはずの優しい二人は、いませんでした。
「牧くんは春田さんを好きなはずだ」「仕事で余裕がないだけだ」と自分に言い聞かせながら、何度も映画館に足を運んで、お笑いパートで笑って自分を納得させて見てきたけれど、どうしても、ふたりの幸せを確信できない。
ふたりが、一緒に食卓を囲んだり、愛する人として、家族として、あたたかく過ごすシーンがひとつも描かれていないから、炎の中の告白もとってつけたようで、吊り橋効果ですぐに冷めるんじゃないかとすら思ってしまいました。
しかも最後は離れ離れ。私には、お互い目指す夢が違うから、それぞれで頑張ろうな、一緒に生活していくのは難しそうだしこれしかないな、さようならっていう、別れのシーンにさえ見えました。
そして極め付けが、夫婦と子供の伝統的家族主義が浸透しているシンガポールが行き先って…。セクシャリティに悩んできた牧くんが、やっと全てを受け入れて肯定してくれる春田さんに出会ったのに(ドラマで)、これからふたたび傷つきながら、コソコソと隠しながら過ごさなければならないって、なぜなんでしょう。
ドラマの優しい世界感を否定して、そんな甘いもんじゃないよと、突然横っ面を叩かれたような気持ちでした。
とってつけたように、これで完結、指輪も交換したら二人は大丈夫って、いわれても、気持ちがついていかないです。
残念ながら、見てしまったので(しかも何度も)、なかったことにはできないのがつらいです。
冷たい余裕のない牧くんが、事件で間違いに気づいて心を入れ替えてくれたことを、シンガポール赴任がごく短期間で済むことを願うばかりです。
このうえ、続編はパラレルで春田は別の人と恋に落ちるよと言われてしまい、牧と春田の世界が、虚構のひとつに過ぎないよと言われたようで、大切にしてきた世界が壊れてしまう悲しみでいっぱいです。
唯一、牧と春田を大切にしようとしてくれた、俳優さんたちに、心から感謝しています。