「要素の詰め込みすぎと身内感満載」劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD ミラーさんの映画レビュー(感想・評価)
要素の詰め込みすぎと身内感満載
ドラマをリアルタイム視聴してから1年と2ヶ月、ずっと心待ちにしていた続編でした。
続編があっても牧は出ないかもしれないと思っていたので、出ることが確定したときは本当に嬉しかったです。
・公式の宣伝戦略
映画が近づくにつれ情報がどんどん解禁され、怒涛の情報供給に溺れそうになりました。
正直、もう少し前から小出しにして、盛り上がるお祭り気分をゆっくりじっくり味わいたかったです。
突然大量放出されたことで、流し見のようになったり、見逃したものもかなりあると思います。
また、ドラマ版からファンを公言していた芸人さんやアナウンサーの方などを公式側に取り込むやり方が身内の盛り上がり感をさらに際立たせていました。
とても気持ちが萎えてしまい、その辺りは一線を分けて欲しかったなというのが一ファンの感想でした。
・テーマについて
「夢と家族」とのことですが、それ以外の部分に時間を使っていて、本来のテーマである「夢と家族」がおざなりだったように思います。
− 夢の部分
ちずと牧が夢の語り合いに夢中になり、久々に帰国した春田そっちのけで盛り上がる。鉄平は以前から夢を見ていましたが、その場にいた春田以外が夢を持ち、夢があることは大事であり、夢がないなんて人として魅力に欠けるというような言い方をします。
そのくせ牧が話す入社以来の夢というのは具体性が無くふわふわしたものです。最終的に春田も夢を見つけますが、それは以前と変わらない、今までやっていたことを夢と認識したにすぎません。本人が夢に向かっている・叶えていると満足できればOKな、またもやふわふわしたものです。
そもそも、本当に夢は必要なのでしょうか。多分春田は不動産の仕事が好きで、街の人に寄り添いながら過ごす日々に満足していたはずです。好きな仕事を、きちんと一生懸命働いている。とても素晴らしいことです。春田にとって仕事面では満足していて、牧との家族形成を夢として見ていた可能性もあると思います。だからこそ、慣れない家事をしたりもしたのではないかと。
夢を持って仕事をしているアラフォー世代がどれだけいるでしょうか。持っていない人、お金のためと割り切っている人も多いと思います。かくいう私もその人ですが、観た後で生き様を否定されているようでなんだか気分が落ち込んでしまいました。
− 家族の部分
牧が話し合いを拒絶して家を出ていったことで、春田と牧の接点がほとんどなくなります。
関係が深くなって変わっていくのが怖かったと後から言われても、単に仕事でテンパっていたから察してちゃんを発動していただけではとしか思えませんでした。
そもそも牧と春田は、望んでいるコミュニケーション手段が違うのです。そして、多分それすらお互い気づいてなかった。会話で関係を深めたい春田と、相手を見て察して何も言わなくてもわかってほしい牧(牧の願望は、両親のあり方を見ているからこそかもしれません)。
ほんの少しでも最初の方で2人が話し合っていれば、違うことを知った上での揉め事や寄り添いなんだと読めるのですが、それが無いので「この2人は本当に1年間問題なく付き合っていたのか?」と疑問を感じてしまうのです。
そしてそんな少しの会話もできない2人が、家族について考えて結論を出しました、と言われても唐突すぎて納得ができなかったです。
・本編について
そんなことがありつつも出来る限り情報を追い、インタビューを読み、公開日を指折り数えて待っていました。楽しみなような、不安なような気持ちが交互に押し寄せ、数日前からは情緒不安定だったように思います。
公開前に発売された雑誌はかなりの量で、その中には演者はもちろん裏方である監督や脚本家、プロデューサーの方々も多数登場していました。
ストーリーの方向性を決めたときの話などを読んでいて、どんどん不安になっていたのですが、映画を観て本当に残念で悲しかったです。
お金を払って観てもらう映画だからスケールを感じてほしい、せっかくなら爆破シーンを入れたい…のように、制作側のやりたいこと、身内で盛り上がってそのまま脚本に反映されたであろうシーンが多数でした。
話全体は整合性が取れず、説明ないまま突然話が進んでいく部分なども多々あり、このシーンを撮りたいから前後にはこういう話が必要だ、という感じで肉付けされたんだろうなと思ってしまう部分が多々ありました。
そういう雰囲気を感じる度にどんどん白けていき、感動できたであろうシーンすらそこまで感情移入できずに終わりました。
・狙うべきターゲット層への配慮不足
話の説明が不足している部分や矛盾に関して、想像して補えないのか、理解力が足りないのでは、行間読まないのかなどなどディープ層(もしくは春田と牧の2人がいればいい派)の擁護コメントやレビューを見かけますが、映画として興行収入を上げて大ヒットを狙うなら、そんなことを観客にさせるべきではないのです。
せめて必要最低限ストーリーの矛盾は解消しておくべきで、それをしないで撮りたい、見せたいシーンが多々あるから不満を感じている方がいるのだと思います。
もちろんコアな方が何度も足を運ばれるとは思います。でも、それって限界ないですか?浅いファン、ドラマを知らない人の方が多いはずで、その人達が面白いからもう一回みようと思えた方が座席は埋まるはずなのです。
諸手を挙げて絶賛するのではなく、今後を見据えて駄目なところは指摘すべきなのではないでしょうか。
・全体の印象
ディープ層に配慮しつつ、新規も狙ってどっちつかずになったかなぁというのが感想です。
また、どう考えても続編を作る余地を残していて、ドラマで感じた「全てを出し切ってやりきる」という気持ちが感じられませんでした。その思いで作ったものだったからこそ、私達はあれほどまでに心を揺さぶられ感動して、1年以上も大好きなままで待っていられたはずです。
今後を見据えた余地が見え見えだったのも、気分が盛り上がらなかった一因だと思います。
・今後について
完結完結と繰り返していますが、上記で書いているように映画で続編をやるのではと思います。
ただ、このキャスト全員でやるのは確かに最後なんだろうなとも思います。皆さん予想されていますが、可能性として抜ける確率が一番高いのは牧。あとは鉄平やちずもいなくなるのでしょう。
わんだほうのシーンは無くても成立しますし、今回のちずは牧の夢への夢想を膨らませつつ、夢を持たない春田を貶す役にしか見えませんでした。
ドラマで牧の告白に対してひどいことを言った春田をビンタしたような、牧の幸せを願って背中を押すような、優しい彼女はどこへ行ってしまったのかと悲しくなりました。
今後の牧は、海外に行っていてメールなどテキストでしか登場せず、営業所にいる春田と部長を主軸に物語を展開するのではないでしょうか。
春田と牧がくっついてはいますが、おっさんずラブとは春田と部長あってこそであり、牧のポジションは替えがききます(実際ハセから牧に変わっているように)。
寅さん寅さんと言っていたように、相手役が変わって同じような話をやるのかもしれません。しかし、1営業所にそんなに男に惚れる男が頻繁に現れるならば、それはただのBL作品に成り下がってしまった瞬間に他ならないなと思います。
正直もう、続編は作ってほしくないです。もし作るならば、ドラマで丁寧に心理描写を表現してくれた山本監督かYuki監督にお願いしたいです。