「最高の娯楽映画 奇想天外なエンタメ」屍人荘の殺人 R41さんの映画レビュー(感想・評価)
最高の娯楽映画 奇想天外なエンタメ
タイトルそのものが怪しく、いい加減さを醸す。
大学のミステリー愛好会の二人、明智と葉村、通称ホームズとワトソン。
大学内で起きる事件を解決?してきたことで、最近依頼がかかるようになる。
この作品はふざけているものの、プロット構成は抜群で作品の世界観にすぐに吸い込まれてしまう。
冒頭の事件は依頼者によるフェイクで、彼らを囮にして教授の部屋から試験問題を盗み出すという目論見があった。些細な事件だが、これを解決した謎の人物剣崎と明智にはとんでもない才能を予感させる。
このときヒロインとなる剣崎と出会う。
彼女はロックフェス研究会に所属していたが、部室に「今年の犠牲者は誰だ」という謎の脅迫文が届いたことで、不吉な事件性を感じていた。冒頭の事件は合宿に参加して力になってくれる人物、明智と葉村を呼ぶことになるきっかけとなる。
フェス研はOB2人の七宮と立浪が力を持っていて、ペンションは七宮の父のものだ。
この二人の会話から、目的が女子部員だということがわかる。また、昨年起きた女子大生行方不明事件についても触れられる。
さて、
恒例のBBQが開催され、何故か盛り上がりに欠ける中、ようやくロックフェス会場へ向かう部員たち。ここでタランティーノ監督真っ青な事件が起きることになる。
オレンジのTシャツを着た救護班の中にテロリストが紛れ込み、参加者に謎の注射を打つ。
打たれた人はゾンビになり人々を襲い始める。
そしてこの作品の根幹を担うこの大きな出来事がなぜ、誰によって行われたのかについては一切暴かれることはなく、当然この屍人荘に集まった「一般人」には知る由もないのだ。
この大事件を完全無視しておきながら、屍人荘で起きる殺人事件を、剣崎と葉村が解決に導いていくというストーリーになっている。
この事件は計画的だが、一般人にとっては偶然出くわしただけだ。
命からがら屍人荘にたどり着いた数人だったが、ここでまた別の事件が発生する。
ゾンビから逃れ、屍人荘に紛れ込んだ静原美冬は、昨年彼女の姉がこの合宿に参加し、七宮と立浪によってレイプされ、妊娠、やがて自殺へと発展した。彼女による復讐劇こそがこの物語の中心となる。
七宮と立浪を殺害した静原と名乗った近藤美冬が起こした殺人事件の真相を暴くと同時に、この謎解きの過程がコミカルさもあって面白い。ゾンビに囲まれるという奇想天外なクローズドサークルという設定の、この奇妙な作品にどんどん引き込まれてしまう。
ホームズ役の明智が、屍人荘に逃げ込む直前ゾンビにやられてしまうのも面白い。彼は剣崎をライバル視していて、彼を存続させると話がややこしくなるだろう。
葉村が、明智は生きていると何度も力強く発言するので、どこかで生きていると思わせておきながら、最後にはゾンビ化した明智に剣崎がとどめを刺しながら「ワトソンは私がもらう」とセリフを決めるシーンは恐ろしくシュールだ。
ゾンビに噛まれた近藤美冬は自害するが、彼女の事件は目的の二人がゾンビ化したことで事件にはならない。
つまり、屍人荘の中で起きた事件は、事件化されないことで剣崎と葉村の成したことはなかったことになる。
そもそも国にとってはゾンビの方がよほど大きな事件で、そんなことなど構っていられない。その虚しさもまた恐ろしくシュールだ。
この微妙なばかばかしさがこの作品の最大の魅力だ。
「人生、どうやって暇をつぶすのが一番面白いのか?」この作品はこの点を鋭く突いている。