「とんでも映画の皮を被った本格ミステリ」屍人荘の殺人 LittleTitanさんの映画レビュー(感想・評価)
とんでも映画の皮を被った本格ミステリ
公開日に観ました。
結論から言うと、評価に戸惑う迷作。
原作未読なので、やはり予告に無かった雑なゾンビ展開に、一瞬呆れました。
しかし謎解きの段階で、ゾンビ要素を加味した本格ミステリであったことが分かります。
ミステリ好きは、本格派からかけ離れた映像作品に落胆しがち。
なので、本格ミステリ映画は単純に嬉しい。
ただ残念ながら、本格ミステリとしては明確な欠陥もあり、不完全燃焼にもなりました。
以下の3点に分けて、感想を書きます。
1. ほぼ本格ミステリ
2. でもやっぱり欠陥が
3. キャラにハマる浜辺美波
4. 共感できる神木隆之介
1. ほぼ本格ミステリ
人によって"本格ミステリ"の定義は多少揺らぎますが、最も大事なのは「謎解きが行われる前に、読者に推理する材料が明示される」こと。
何より御法度なのは、謎解きの段階で突然新証拠や新証言が飛び出すこと。
刑事ドラマでありがちな、何の言及もされてない未登場の人物が犯人なのも、基本的にはガッカリ要素。
ただ、本来言及されるはずの常識的要素が、敢えて言及されていなかったり、巧妙に言い換えられていたりすることは、ルールの範囲内だったりします。
古典の代表は、エラリー・クイーン。
日本の新本格ミステリの代表は、綾辻行人。
本作は、合宿先に着いた時点から、伏線(ヒント)がちゃんと張り巡らされており、順不同であるものの、最終的な謎解きに必要な要素はほぼ映像に写っています。
ただ、部屋の電源を入れる際のルームキーには特異性がないことは、知識として持っていないといけません。
また、本作最大の特徴であるゾンビ要素は、"The Walking Dead"などの作品で流布しているルールに馴染んでないと、何が問題すら理解できないかもしれません。
ただ、ここら辺の前提を踏まえている人には、(新)本格ミステリとして楽しめる仕様になっています。
2. でもやっぱり欠陥が
ただ、原作はどうだかしりませんが、映画版ではゾンビ要素が全てにおいて雑すぎて、どうしたらゾン化するか? ゾンビの知能はどれほどなのか? などのルールにほぼ説明がありません。
登場人物がこうなんじゃないと言ってみたり、ラジオから断片的な情報が流れてきますが、確定的な情報が皆無なので、推理の材料として不確定な要素が多すぎる感が否めません。
ゾンビの能力は作品によって結構まちまちです。
ゆっくりしか動けないのが定番のはずが、走るゾンビも時折見かけます。
コメディなら喋るゾンビ、賢いゾンビも登場します。
本作は、「トリック」シリーズなどでもお馴染みの木村ひさし×蒔田光治コンビの作品で、コメディ要素たっぷりなので、ある程度賢いゾンビもありな気もしてしまいます。
その結果、最後の謎解きにも、説得されきれない残尿感というか、もやもや感が残りました。
携帯の中を観られても嫌がらないのを訝しむのが謎解きにつながりますが、そもそもパスワードなり、指紋認証なりのセキュリティをかけてない方がよっぽど変だし、そんな人は中をみらても平気なものしか入れてないのかなとも思っちゃいます。
3. キャラにハマる浜辺美波
などと言いつつ、本作を楽しめたのは、浜辺美波のヒロイン力と、神木隆之介の共感力にある気がします。
浜辺美波は、これまでも原作付きの映像化で成功しています。
話題になった「あの花」のめんま。
「咲-saki-」だって、「賭ケグルイ」の蛇喰夢子も、ハマりまくってました。
無論、漫画やアニメのキャラに容姿やスタイルを含めて完全に同化することは不可能だけど、持ち前のピュアさだけでなく、凛々しさや凄みを狂気を画面に残すことで、2次元キャラも違和感なく体現してきました。
本作における若干高慢だったり、時折子供っぽかったりするキャラがどれだけ原作どおりなのか分かりませんが、何をしてても画になる美しさが、眼福だったのは確かです。
4. 共感できる神木隆之介
子役の頃からルックスも声も美しく、イケメン俳優に成長した神木君。
と言っても、適度にイケメン過ぎず、人当たりのいい親しみやすいキャラクター。
なので、彼が等身大の青年を演じると共感しやすい。
「11人もいる!」の真田一男のフツーっぽさが白眉で、がっつり感情移入しちゃいました。
本作の迷宮太郎も、気は優しいけど推理力はごくごく普通の大学生というワトソン役。
気持ちが分かり、応援したくなる主人公で、とんでも映画だけど、彼の目線でいたおかげで、振り落とされることなく、映画を楽しめました。