「最低限,ここだけは守って貰わないと」名探偵コナン 紺青の拳(フィスト) ashitakaさんの映画レビュー(感想・評価)
最低限,ここだけは守って貰わないと
コナンはコミック全巻持っていて,映画もすべて観ています。
今回は,初監督(しかも初女性)ということで,新しい要素が加わることを楽しみにしていました。
コナン映画は,やはり推理が第一,そして最近は回を重ねる毎にアクション要素が強くなってきました。テーマとして「恋愛」や「友情」が描かれることはありましたが,その扱いは部分的であったり,描き方が雑だったりしましたが,それは仕方ないものと考えていました。
今回,園子の表情や仕草の描写など,心理的な描写はいつもより細かく丁寧で,その辺は新しさを感じました。
キッドの描き方も,いつもの無闇でワンパターンなかっこよさではなく,黒羽快斗的なコミカルさもあり,コナンとの親密さもこれまでとは違うタッチで描かれており,それはそれで好ましい印象でした。
ただ,アクションシーンの非現実性はともかく,推理の面でセオリーを無視するのは頂けません。例えばエレベーターのトリック,劇場で観ているとあまり感じないかも知れませんが,途中で降りて部屋で殺すなんてタイムラグありすぎで,その場にいたら疑問すらわかないと思います。常設の監視カメラ見たらすぐにそうしていることが分かりませんか?
また,キッドが盗みに入った金庫から死体が出てきたからと言って,キッドに罪をなすりつけることなんて出来ないですよね。前日に殺されてずっとそこにあったのですから,死後硬直の状態から,死亡推定時刻が分かれば疑われることなどないはずです。むしろそこに死体があることより,死亡推定時刻の登場人物らのアリバイがまず捜査されるのではないでしょうか。
その他,空手の描き方がむちゃくちゃすぎます。あまりにも実際の空手の大会と異なるルールや技が出てきて,監督を含め関係者が,事前に勉強していない様子が透けて見えます。
さらに言えば,犯罪行動心理学者という人が出てきますが,心理学者は催眠術師ではありません。特に,「行動」と入れてしまったのがまずかったと思います。催眠のような手段を一番嫌う人種だと思います。
何はともあれ「催眠術」で力がある(ように描かれている)師匠であるレオンを,ことごとく裏切らせるリシに,どんな力があるのかが不明でした。タンカーを突っ込ませるほどの大仕事をした海賊が「もっといいビジネス」があるといって裏切っていましたが,リシにどんな経済力があるというのでしょうか。経済力,人脈,人間性,知性など,人を味方につける(裏切らせる)力は色々ありますが,なんか一番重要な,真犯人が勝利する力が「催眠力?」みたいなのは納得できません。コナンがこれまで見せつけてきた知性や論理性はどうでもよくなってしまわないでしょうか。
コナンのよさは,現実性と非現実性のバランスにあると思いますが,推理や論理においては(時に執拗なまでに)現実的であることが鉄則であったように思います。新しさを出していくことも大事ですが,最低限,ここだけは守って貰わないと,コナンとは言えないように思います。
さらに言えば,アクションも,急にお祭り騒ぎになったような印象で,どんな風に火が広がっていったのか,ついて行けませんでした。
分かりやすく,タンカーに爆薬を仕掛けて,大爆発とかさせた方がよかったのではないでしょうか。
上記に述べたような,推理もののセオリーや現実に即した事象に対するリサーチ不足といい,爆笑と話題の京極のおんぶ戦闘シーンの描き方といい,令和というよりもむしろ「昭和」のアニメを見ているような(チープな)印象でした。
今回は,恋愛やアクションでよい反応をする観客もいたかも知れませんが,コナンらしさの本質を欠いた状態が続くと,本編で黒の組織の黒幕との決着がつく前に,早晩観客に飽きられてしまうのではないかと危惧します。
次回作に期待します。
>タンカーを突っ込ませるほどの大仕事をした海賊が「もっといいビジネス」があるといって裏切っていましたが,リシにどんな経済力があるというのでしょうか。
映画内でその直後に、「このホテルのスイートルームには鈴木財閥のお嬢様(園子)が宿泊しているそうじゃないか。彼女を人質にとれば、身代金は莫大…ウンタラカンタラ」というくだりがありましたよ。その為に園子の部屋に警察の名を騙り、危険だから部屋に待機するように、と電話していましたね。
また、私もコナンは全巻持っていますが、理論に関しては大体非現実的だと思っています。映画に関しては、京極さんの心情が理解できなかったり、アクションの突っ込みどころ満載感は否定しませんが。
コナン映画だけ観るスタンスの人にとれば楽しめるのではないでしょうか。