劇場公開日 2019年9月13日

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「地獄に堕ちて書いてるか?」人間失格 太宰治と3人の女たち KinAさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0地獄に堕ちて書いてるか?

2019年9月15日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

どこか打算的な愛人か、信じて支えようとする妻か、永遠を求めて縛る恋人か、さて私は誰だろうと思いながら観ていた。

壊れないと生きていけない、堕ちないと言葉を綴れない、太宰治のだらしなくて哀しい性。
わかっちゃいたけど、彼の最低な素行っぷりを改めて実感しつつ、だんだん絞まっていくその首にハラハラさせられる。
これだけ好き勝手やってて何が苦悩だ、と言いたいところだけど。

3人の女たちは見事に太宰治を翻弄していて、全員魅力的だった。

一番好きなのは富栄かな。
不倫の恋におけるモヤモヤと敗北感を一番体現していた人だと思う。
最初はスンとすましてみせた女ほど、のめり込めば深いもの。
あまりにも強引でいやらしい彼女の落とし方も好き。あんなのドキドキするじゃんね。

太宰を繋ぐ子供もできず、家族にもなれず、小説のモデルにもなれない。
そんな彼女が次第に魅入られる死と、そんな彼女に引きずられてしまう太宰のちょっとした焦りの駆け引きが面白かった。
「青酸カリがありますから」の言葉の強烈な力よ…。

赤ちゃんが欲しいの、と重くなったと思ったら、開き直ったように現実的に利益を迫ってみせる静子。
ニッコリと可愛い笑顔でどんどん図々しく開き直っていく姿のなんと素直なことよ。
不良で結構、最後のインタビューもわりと図太くて好き。

しかしどうも、関係ないけど、申し訳ないんだけど、沢尻エリカってどんな話し方をしてもどんな表情をしても胡散臭くてつまらなく感じてしまうのは私だけ?
またこの沢尻トーンか…と若干辟易としてしまった。

家に帰らず不倫三昧の夫にヤキモキしながら3人の幼子を抱えてワンオペ家事育児に勤しむ美和子。
Twitterか何かで現状の愚痴を吐いてみたら反響大きいんじゃない?
離婚しろの嵐だろうけど。

時には悲しみ時には怒りつつ太宰と家庭を築こうとしていた美和子が、それを捨てろと強く言う言葉に胸が詰まって熱くなった。
乱れた髪と衣服、自分が一番大変な時になんでそんな風に夫の尻叩きを出来るんだろう。
諦めと強がりと、それでも夫の才能を信じる彼女の色々な感情が混ざった目付きが忘れられない。
でも私、こんな妻にはなりたくないな。

それぞれの人物に感じる魅力は大きいものの、映画全体としての締まりの無さが終始気になった。
間の取り方と詰め方が下手なのか、常にダラダラしている印象だし、ナレーション系の演出がとにかくダサい。
登場人物それぞれに面白いポイントがあるのに、どうもそれを活かしきれていない気がする。

太宰の小説家としての苦悩より恋愛面でのゴタゴタにかなり偏っているので、「書けない」だとか「書く」という言葉の重さがイマイチ伝わってこなかったのも残念。
待ち続け発破かける佐倉もドンと押し出す美和子も胸が熱くて良いのに、そうさせるだけの力が感じられなかった。

蜷川実花ならではのイメージシーンの演出はやはり好き。
しかし彼女の色の濃さは、ただの街中や山道や古い和室なんかでやられると、無理矢理な加工感が強くてどうにも違和感がある。

美術をガンガンに効かせた室内シーンでは途端に映えるのにもったいない。
どうせなら街中もゴテゴテに装飾しちゃうくらいの非現実感や舞台感を出した方が面白いんじゃない?などとついつい考えてしまう。
もっと迫って欲しい。もっとゴリ押しして好き放題やって蹴散らかして欲しいのに。

結局、太宰治の芯はなかなか見えてこなかった。
女たちの芯は少し見えてきた気がするけど。
ただ、不倫映画として面白かったかな。いいよね、傷つく人のこととバレた時のこと考えなければ不倫っていいよね。ダメだね。
死にたくないけど死ぬ気で恋はしてみたいなーー死にたくないけど私は富栄かなーーーーああーー藤原竜也と結婚しながら藤原竜也の不倫相手になりたいなーーー守るべき妻子がそんなに大事か!?うーーーん大事だな絶対。

KinA