「ロデオランド」ザ・ライダー 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ロデオランド
『ノマドランド』のクロエ・ジャオが2017年に手掛けた長編監督第2作。
日本では未公開、小規模作品ながら、多くの映画賞で受賞やノミネートされるなど、飛躍の作品となった。
アメリカ中西部のサウスダコタ州。
有望なロデオ乗りだったブレイディ。が、競技中に落馬して頭部に大怪我を負う。
一命は取り留め、再びロデオの世界に戻ろうとするが…。
普遍的な一人の若者の喪失からの再生の物語。
それを、じっくり繊細に丁寧に描き出していく。
また、『ノマドランド』の原点とも言える演出/作風も見え隠れ。
主人公のブレイディは実在の人物がモデル。周りの家族らも然り。それを、ご本人が演じる!
…と、まあ、以前にもクリント・イーストウッドが『15時17分、パリ行き』で同手法で撮ったが、本作の方が圧倒的に味わいがあった。
主演のブレイディ・ジャンドローを始めキャスト皆本当に素人さん?? 名演!
またそれが、フィクションを見ているような、ドキュメンタリーを見ているような、不思議な感覚に陥る。
そして、アメリカ西部の雄大な映像美。
これは『ノマドランド』以上で、より古き良きアメリカ西部への憧憬を感じた。
クロエ・ジャオの長編監督第1作も現代カウボーイの物語らしく、見れる機会があったら是非見たい!
ロデオ。カウボーイ。
アメリカの男の代名詞であり、体現。
ブレイディも意気揚々とカムバック…否! そう容易くはなかった。
一度は命すら危ぶまれたほどの大怪我。
トラウマはあまりにも大きかった。
戻ろうとするも、あの時の恐怖が蘇る。
家族は止める。
すると、反発したがる。
久し振りに騎乗する。
嘔吐してしまう。
さらに、医者からある宣告が…。
馬を降り、全く別の仕事を始めるが、本当に俺はこれでいいのか…?
主人公一人だけじゃなく、周りを取り囲む物語でもある。
ブレイディと調教した馬。
ある時その馬が脚に怪我を負う。ロデオ馬として、もはや絶望。このまま生きるのも難しいかもしれない。下した決断は…。愛馬に対し、俺は…。
ブレイディと“家族”。
知的障害の妹。自分も傷を抱えながら妹を支えているが、時には妹に支えられ…。
兄のように慕う元ロデオ・スター。が、競技中の事故でブレイディより重い全身麻痺。そんな動けない姿になっても、ブレイディにエールを贈る終盤のシーンに胸が熱くなった。
夢を諦めるな。
ドストレート。
ドストレートだから響く。
どん底、挫折、喪失を経験したのならば尚更。
乗り越えるのは楽ではない。
が、再び乗る事が出来たら…。
人が馬に乗って大地を駆ける姿はどうしてこうも素晴らしく、美しく、カッコいいのだろう。
だから、魅せられる。
この生き方を止められない。
どんなに危険であっても。
馬が、アメリカの西部が大地が、俺を呼んでいる。
俺は生粋のカウボーイ。
この時はオスカー自体には絡まず、“新鋭”や“注目”で終わったクロエ・ジャオだが、今回は本当にオスカーの主役に。
アカデミー賞発表直前。
前評判から考えても、クロエ・ジャオ(と『ノマドランド』)の勝利は揺るぎないだろう。