「イーストウッドの存在感あっての説得力」運び屋 REXさんの映画レビュー(感想・評価)
イーストウッドの存在感あっての説得力
アールは家庭を顧みず仕事に打ち込んできた、まさに仕事が趣味の男。
花がそんなにお金になるとは私は知らなかったが、その業界では品評会で高評価を受け一目置かれた存在。
栄光の時代も終わり、気がつけば孤独に。その埋め合わせをするかのように、その仕事が危ういと感づきながらも運び屋となる。
面白いのは、アールの堂々とした立ち居振る舞いや言動に、マフィアたちも巻き込まれていくところ。友情めいたものまで育んでしまうのだから、イーストウッド爺さんの存在感恐るべし。若い女性になぜかモテる、というのも説得力。対比して奥さんの苦労は仕事だけじゃなかったんだな、というのも垣間見える。
また、お金の使い道について考えさせられる点も。
運び屋という仕事は汚いものだが、報酬の使い方は孫の学費や退役軍人のサロンの修繕など、周囲を喜ばすことばかりだ。チンピラがろくでもないことに使うより、よほど善用しているといえる。
違法になるのは、それが法律違反だと定められているからであり、定めたのは第三者の意図であり、こちらの承諾無しに存在してきたものでもある。
アールの代わりに結局誰かが雇われるだろうし、彼が運び屋のままの方が社会的には益だと考えると、そこに複雑なものが去来する。
しかし、積み荷の正体を見てしまった以上、アールは無用な言い訳をせず罪を潔く認める。どちらかというと粗野な人間で紳士然としていないからこそ、不器用な人生を送った男の悲哀がより立ち上る。
「ミリオンダラー~」や「グラン・トリノ」のように劇的すぎないのがよい。きっと獄中でも「アール節」で周囲を巻き込んでいくんだろう。
少ない会話で彼の背景を汲み取るベイツ刑事の存在も、出しゃばりすぎず良い。
しかしブラッドリー・クーパーってこんなにさっぱりした顔してたっけ。