劇場公開日 2019年12月6日

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「映画のいけにえ」ゴーストマスター 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5映画のいけにえ

2019年12月14日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

興奮

『年末には魔物が潜む』なんて言葉を聞くが――
「2019年もあとは『スターウォーズ』あたりで
盛り上がって終わりかねぇ」と思い始めていた
矢先に、文字通りの怪物映画が登場!

『死霊のはらわた』『遊星からの物体X』等の往年
のアナログ感溢れるVFXホラーが好きな方なら、
この作品はオススメです。くわえてそれらの傑作を
製作した作り手をリスペクトしている方であれば、
もう全力でオススメです。
(ただし上記作品のような血みどろ描写がニガテなら注意)

地獄のように甘々な学園ラブコメが始まったかと思いきや
それが血みどろパニックホラーコメディへと転じ、最後は
映画制作への愛憎入り雑じる想いが炸裂して謎の感動に
襲われるという、前方伸身宙返り3回ひねりみたいな
(ちょっと何言ってるかよく分かんない)作品でした。

...

ラブコメ映画の撮影現場で助監督を務める主人公・黒沢明。
不協和音だらけの現場をおさめようと必死に働く彼の夢は、
自分のB級映画愛を注ぎ込んだ脚本"ゴーストマスター"
をいつか自らの手で映画化すること。しかし、スタッフ
たちからの心無い仕打ちや冷徹な言動で彼は自分の
才能に絶望。行き場のない感情を爆発させてしまう。
だがそれをきっかけに、彼が肌身離さず持ち歩いていた
"ゴーストマスター"の脚本がおぞましい姿へと変貌!
黒沢の意思とは無関係にスタッフの1人を怪物に
変えたことで、撮影現場は大混乱に陥ってゆく――

キュン死じゃすまない究極の壁ドン!
OKが欲しすぎる役者馬鹿イケメン!
鋼鉄のあずきバー! 効力ゼロ梵字!
ジャミラ襲来! 自然なタランティーノDis!
そしてゲス過ぎる元柔道五輪メダリスト!

ザッツB級な脱力するような笑いがこれでもか!と
盛り込まれてるし、気合は入りまくっているのに
ズレたセリフの数々や、商業優先の映画に対する
皮肉みたいな冴えた笑いまで散りばめられていて、
もうずっと笑いを堪えるのに必死。

特殊メイク主体の血みどろアナログVFXは
かなりクオリティが高いが、ふよふよ飛んでく
"ゴーストマスター"のユルかわいさとか、
表現そのまま「目ン玉飛び出す」シーンとか、
そこもスットボケた笑いに一役買っている。

...

出演陣も魅力的。

「お前がキュンキュンすんのかい!」とツッコミたく
なる強面監督や、男前過ぎるケーコさん、クールな
仕事人の松尾カメラマン、熱苦しい轟先生と彼に
尽くす付き人など、脇役が皆立ちまくってて楽しい!
(付き人さんの最後の笑顔には笑いながらも感動)

一方、自分の才能に絶望していた黒沢が、段々と
死にもの狂いで脚本・作品に向き合おうと奮い立って
いく姿や、“親の七光り”とバカにされる若手女優・
真奈が自身のルーツに立ち返って闘いに臨む姿など、
現実の分厚い壁にぶつかりながらそれでも
足掻き進もうと成長してゆくドラマも熱い。

ツギハギだらけの作品を救う為、そして作品へ懸ける
自身の想いを遂げる為、全員がありったけの映画愛で
白紙の脚本を「上書き」してゆくのだ。

...

しかし……
「熱い映画愛が全てを救う!」という結末で終わる
映画は過去にも数多くある。だけど、この映画は
それだけでは終わらない。終わってくれない。

才能が無いと分かっていても夢を諦められない主人公。
偉大な親の呪縛から抜け出せず、輝き切れない女優。
映画を多くの人に見てもらう夢を諦められないと笑った人。
映画への憎悪を吐露しながらも、カメラを守ろうとした人。

「君は映画に愛されてる。僕じゃない。」

いくらこちらが映画を愛してみせても、
映画がこちらを愛してくれるとは限らない。
綺羅星のように輝く名作に心惹かれて道を志しても、
そんな名作を生み出せるのはせいぜい数万人に
一人の凄まじい才能と運に恵まれた人間だけだ。
(これは何も映画に限った話ではない)

そんなことは分かっているけど、諦められない。
その輝く星に憧れ続けずにはいられない。
そんな愛憎入り雑じる気持ちを抱えて生き続ける。
強過ぎる愛情というのは、呪いと何ら変わらない。
自分では諦めたつもりでも、決して本当には
心を去ってくれない、そんなものなのだろう。

...

そんな、愛しているが故の憎しみと、憎んでも
なお愛しているという想いが融け合うラスト。
最後に映し出される映像に怒涛の感動を覚えた。

愛だけで名作は創れないかもしれない。だけど、
愛がなければそもそも何一つ創り出せやしない。
浮かばれなかった多くの映画人たちが、“映画に
愛されている”人々へと託してきた想い。そんな
想いの積み重ねもまた、綺羅星のような名作を
生み出してきたのではないかと信じたい。

気合の入ったVFXとトボけた笑い満載ながら、
美しく残酷で、澱んで見えつつも純粋な映画愛に、
思わず胸が熱くなる。そんな怪奇な快作でした。
素晴らしいです。4.5判定で。

<2019.12.07鑑賞>

浮遊きびなご
CBさんのコメント
2019年12月15日

このレビュー、熱く迸っていて、すごいです!
映画には、残念ながら、ハマらなかったけれど、このレビューにハマりました!

CB
kossyさんのコメント
2019年12月15日

きびなごさんの熱いレビューにまいりました!
あの血みどろ加減はたしかに『遊星からの物体X』でしたね~
やっぱりカーペンターに謝れ!がきつくのしかかってきます。
予告編にはなかった監督名の羅列も凄いものがあったけど、中島貞夫や野村芳太郎まで出してくるのには違和感ありありw
もしかして、動きがノロいのはロメロオマージュだったのかも・・・

kossy