エセルとアーネスト ふたりの物語のレビュー・感想・評価
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平凡な人生をおくれることの素晴らしさ
平凡な人生を送ることがこんなにも素晴らしく、美しいことだと描いた作品は滅多にお目にかかれない。平凡に結婚し、平凡な家を買い、平凡な仕事をして、平凡に子どもを授かり、平凡に年を取り、天寿を全うする。それこそ人生で最も大切なことだとやさしい語り口で教えてくれる作品だ。貧しい暮らしの厳しさも、老いていくことの残酷さもレイモンド・ブリッグズは隠さない。全ては人生の一部であり、そんな残酷さを隠さずとも人生は素晴らしい。レイモンド・ブリッグズが自分の両親をモデルにしたこの作品、庶民の視点から現代イギリスの歩みを振り返るものであり、それは『この世界の片隅に』にも通じる部分がある。世界は残酷、そんな世界で平凡に天寿を全うできるだけでも、確かに我々の人生は儲けものではないか。あまりにも美しい映画なので、涙が止まらなかった。ブレンダ・ブレッシンの声を久しぶりに聞けたのも嬉しかった。
誰の心にも両親への思いが蘇って来るはず。
「スノーマン」「風が吹いたら」で知られるイギリスの絵本作家、レイモンド・ブリッグズが、愛して止まない両親に捧げた人生のスケッチは、別段、特別な出来事が起きるわけではない。戦前、戦中、戦後を、互いに慈しみ合い、笑い合いながら生きた夫婦の日常の積み重ねで構成されている。ブリッグズ独特の手描きタッチを、そのままアニメーションに生かした製作者たちのリスペクト。そこから浮かび上がる庶民の生活の尊さ。足早に過ぎ去る人生の時間。そして、突然の別れ。人の世の至福と残酷さが、これほどまで胸に迫るのは、エモーションを抑制した原作者の手法が、本作にも受け継がれているからだろう。見終わると、きっと、誰の心にも両親への思いが改めて蘇って来るはずだ。
二度とは戻らない人生
冒頭の実写パートは、視聴後もう一度観たくなりました。
アニメにチェンジしてからは、映像が個性的で見入ってしまいました。
クルマや戦闘機、建物やドア等は歪みのないCGを使用していますが、絵のタッチが統一されていてアイデンティティを感じます。
序盤にほんの少しだけ他の夫婦の性欲事情の描写がありました。
合計3パターンの夫婦が登場しますが、あくまでもエセルとアーネストの二人以外は脇役というスタンスを貫き、焦点はブレません。
絵は独特ですが、これといってキャラ立ちしているわけでもなく、不思議なことや特別なこともなく、喜怒哀楽を大袈裟に表現することもせず、ただひたすらテンポ良く年月が過ぎ、時代の変化とともに老化していく夫婦の様子を淡々と描いています。
主人公を自分と重ねたり、親や祖父母に見えたり、全く別世界だと感じる瞬間もありました。
エンドロールに登場する数々の写真が、本編を振り返るようなシチュエーションなので、アニメを観たのに実写映画を観たような感覚になりました。
イギリスの街といなかの美しい景色が広がる
お互いおとなしそうな二人が結婚して平凡な生活を送るお話。
それのどこが良いのかわからないが、自己主張なんかしなさそうな
エセルが結婚後は自己主張し、アーネストはマイペース。
全体的にほんわかした幸せムードは画像の影響もあると思う。
とにかくうごきがスムーズ。画像自体はリアル感が少ないけれど建物や景色は素晴らしい。デズニーや日本のアニメとも違う。
出てくるイベントはすべて史実でその時代に生きているという事がよくわかる。夫婦で支持政党が違うのも面白い。
子供が大きくなったら声変わりもしていた。
亡くなったときの姿は寂しいものが有ったが後悔のようなものはみじんもない。生ききったって感じ。
特に大きな感動もないけれど見終わった後、良かったなと思わせてくれる映画。エンディングもポールの曲にあわせて楽しい作りになっていた。
それにしても、安月給の感じなのに電気自動車や大きな車を買ってたのはちょっと不思議。
それと、エセルはヘビースモーカーか?今に時代は生きにくいよ!
CGが多様されているが、水彩画風で良いと思う。
心温まる物語!
人生は素晴らしい
絵本の絵柄がグリグリと動くアニメーションが面白い
☆☆☆☆ 『この世界の片隅に』たった2人でヒトラーと戦った夫婦の物...
☆☆☆☆
『この世界の片隅に』たった2人でヒトラーと戦った夫婦の物語。
戦後は。少しだけ上流階級に憧れがあり、ちょっとだけ見栄っ張りな母親と。労働者としての誇りを忘れない父親との間に、ほんの少しだけの差異が生じるものの。寄り添いながら生涯を全うする。
地味だけど、絵本調の色彩も良くて素敵なアニメーションでした。
2019年10月19日 岩波ホール
* 但し、日本人としてたった1つだけ気になったところが…。
広島に原爆が投下された事に対して父親は。
「たった1つの爆弾で10万人も死ぬなんて」と嘆く。
しかし母親は…。
「これで戦争は終わるわ!」…と一言。
やはり世界的に見ても。広島・長崎に対する原水爆の投下に関しての意見は、我々日本人とは隔たりがあるのだなあ〜…と。
想像を膨らます
自分もこんな人生送れるかなー、と。
愛が深い優しい気持ちになれる映画
作り手の愛情を強く感じました。
絵本のタッチに近づけるために新しい技術を開発する意気込み、原作への愛が深い人たちが大切に作った作品で、それだけでもいとおしいです。
日本人が憧れる上流階級の英国ではなく、ごく一般大多数の労働者階級の夫婦がすごすその時代のごく普通日常を丁寧に描いているのをはじめてみました。
使っているもの、言葉、所作、普段目にする映画では描かれない様子が新鮮で。『物語は細部に宿る』とはこのことかと思いました。
そして物語はやさしくて愛しくて。
悲しいけれど最後の時に夫を忘れても初恋の思い出に戻るお母さんに愛情の深さを感じて泣いてしまいました。
事件性も派手さも奇抜さもない、昔の上質な文学に触れた気分です。
そして見終わった後、親に友人に連絡取りたくなりました。
絵本をアニメ化する意味
原作絵本(あるいは、グラフィックノベル)に、あまりに忠実であったので、びっくりした。
動きを付け、シーンを補完しているだけで、絵や台詞は、本質的には変わらない。
初見の人は、原作の内容を堪能できるだろう。
ロンドンの庶民の平凡な人生は、万国共通の人間的な共感を呼び、社会風俗の生き生きした証言になり、戦争という「普通じゃない時代」ではドラマチックでもある。
しかし、前日に図書館で、原作を読んで予習した自分は、複雑な気分であった。「映画館に来る必要があったのか」と。アニメ化する意味は何か? と考えてしまった。
アーネストのロンドン訛りっぽい台詞が聞けるが、労働党びいきな描写は最小限に抑えられている。
また、品のない表現や、ヒトラー・スターリン・ユダヤ人・中国人といった言葉の使用は避ける傾向がある。
制作陣は、原作のラフスケッチ風の絵柄(“ルック”)の再現に苦労したらしい。色彩はほぼ完璧で、一部の背景も忠実だが、全体的には良くも悪くも、原作より緻密できれいだ。
キャラクターは手描きとのことだが、動くがゆえに、さすがにラフスケッチ風とはいかなかったようだ。なお、動きは3D的であり、動く絵本ではない。
映画を先に見ると、描き方がラフで動きのない原作を読んでも楽しめないかもしれない。
しかし、原作を先に読んだ自分には、このアニメ作品が、妙に“のっぺり”と引っかかり所がなく思えて、正直なところ退屈してしまった。
エセルもアーネストも、一般観客向けに、どことなく無難なキャラに丸められ、お国柄も今一つ伝わってこない感じがする。
ポールのエンディングの歌も、平凡だった。
また、なまじ原作を先に読んでしまうと、アニメ化による何かの“プラス要素”を期待してしまう。しかし、本作は忠実な再現を優先するあまり、アニメならでは、という魅力には乏しい。
むしろ、原作絵本を知らない方が、率直に本作品を味わい、感動できるのではと思った。
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