「吹き抜ける90年代の風を感じると高圧的なアニキへの愛憎が懐かしい貴方へ... 承認欲求をこじらせて背伸びしたあの日の僕が確かに居る」mid90s ミッドナインティーズ O次郎(平日はサラリーマン、休日はアマチュア劇団員)さんの映画レビュー(感想・評価)
吹き抜ける90年代の風を感じると高圧的なアニキへの愛憎が懐かしい貴方へ... 承認欲求をこじらせて背伸びしたあの日の僕が確かに居る
内容を一言で言うと、"中学生の男の子が背伸びして粋がってみた90年代の一夏の思い出"です。特段強烈なテーマがあるわけではなく、主人公が大きく成長するワケでもなく、あの時代に"押さえつけられている"と感じる少年だった人たちの郷愁を誘うための作品、ということだと思います。
内容ですが、いきなり主人公の少年が体格の良い兄に自宅で押し倒されて折檻されている場面から始まります。いささか物騒なシーンですが、この冒頭からしてもうこの少年=自分だと強烈に刷り込まれました…。
僕は5つ上の兄と4つ上の姉がいる末っ子育ちですが、幼少期はまさにこんなシーンがしょっちゅうでした。態度が気に入らない、軽口に言い返したのが生意気だ、お前の所為で誰それから怒られた等々…何かにつけてよく引っ叩かれたものです。本作の兄弟のように確固とした体格差ではなかったですが、それでも長年刷り込まれた力関係で「オイ!!」と兄に呼ばれるとビクついたわけで。
そしてまた一方で、兄に認められたい、喜んでほしいと思ってしまうのもまたどうしようもなくリアリティー。
本作では他にも、兄が自身の不在時について「絶対俺の部屋に入るな!!」と釘を刺すもののコッソリ侵入し、そこで兄のCDラックの中身を確認しつつ、後日兄が持っていなかったCDをプレゼントする描写が有りますが、これなんかはまさに上の兄弟に愛憎相半ばする末っ子心理そのものでこれまたグッと来ました。
その後、主人公は不意に入ったスケボー店で出会った不良少年たちと交友を深めることになるわけですが、この"家庭では年少ゆえに何かと小馬鹿にされるので、家族以外の年長と交友を持って粋がりたい"という少年心理も非常にシンパシーを感じるところです。
終盤に重大な事故を経て仲間たちの別離を予感させつつも明るく終幕を迎えますが、メンバーの一人のフォース・グレードは本能的にそれが解っているからこそ普段から仲間たちをホームビデオで撮り続け、やがて離れゆく関係であっても確かに何がしかの価値が有ったのだと示そうとしたのだと感じました。