劇場公開日 2020年9月4日

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「「危うい青春物語」としては王道的な展開だが、選曲と映像の切れ味が印象深い作品。」mid90s ミッドナインティーズ yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「危うい青春物語」としては王道的な展開だが、選曲と映像の切れ味が印象深い作品。

2020年10月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

本作は、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013)などで個性派、というよりもコメディ色の強い俳優として高い知名度のあるジョナ・ヒルの初監督作品です。

まず上映前に、スクリーンの左右の紗幕が大きく内側に寄ってきて、ちょっと意表を突かれました。白く浮かび上がる画面はほぼ正方形のいわゆるスタンダード・サイズ。これは本作が16mmフィルムで撮影されたためです。しかし1990年代には、既にビデオカメラが普及していて(本作に登場するフォース・グレードが愛用するカメラのように)、16mmフィルムの粗い調子がそのまま当時の時代に直結している訳ではありません。恐らくジョナ・ヒルは当時の雰囲気をそのまま再現するというよりも、スケートボードに熱中しつつもそれぞれの事情を抱えて、心理的には袋小路に陥っている彼らの心象風景を描出するのに、16mmフィルムが適していると判断したのではないか、と推測しました。

13歳の少年スティービーは、粗野な勇気を見せつけて、スケートボードの輪に加わるだけでなく、少年ギャング的な世界にも入り込んでいきます。もちろん、いくら仲間に気に入られようとも、彼は年端のいかない子供。その行動は危うさを増し、やがて事件へと発展していきます。

展開そのものはあまり意外性はないのですが、ジョナ・ヒルは少年達に対する郷愁的な共感を封印して、時には鋭い切れ味で彼らの姿を描いていきます。スケートボードやヒップホップを中心とした選曲など、本作にはヒル監督が影響を受けた要素を盛りだくさんに詰め込んでいますが、彼自身の自伝的な物語を描くつもりはなかったそうです。とはいえサニー・スリッチ演じるスティービーや、ファックシット、そしてフォース・グレードなど、それぞれ魅力的な人物からは、ヒル監督の様々な側面を見出さずにはいられません。ルーカス・ヘッジスは『WAVES』とはまた異なった役回りですが、家の中でしか居丈高になれない哀れな青年を見事に演じています。

パンフレットはデザインも紙質も素晴らしく、ジョナ・ヒル監督のロングインタビュー、映画で登場したロサンゼルスの各所の解説、プレイリスト、写真集など盛りだくさんです。本作をより深く理解する上で、必携の資料でしょう。

yui