「作家性と大衆性の絶妙なバランス。だからこその物足りなさ。」きみと、波にのれたら すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
作家性と大衆性の絶妙なバランス。だからこその物足りなさ。
○作品全体
恋人が急に亡くなって…というストーリーを「ありがち」と感じてしまう昨今の作品群、すげえな…というのは置いておいて、キャッチーなストーリーラインの中に見え隠れする湯浅監督のサイケデリックな画面作りがそのままこの作品の個性になっている。「二人の想い出の歌を歌うと水の中に亡くなった恋人が現れる」と書くとロマンチックに感じるが「主人公が落ち込みながら歌っても恋人はシャカピースで現れる」という要素が加わると、シーンによっては超広角なレイアウトも合わさって、湯浅監督の作家性が先行してくる。その作家性と大衆性が引いては押して、引いては押してを繰り返す…どちらに偏ることもない、絶妙なバランスだった。ただその押したり引いたりが綱渡りのような「ひやひや」をはらんでいたようにも感じた。
クライマックスのサーフィンシーンはまさに自由自在のカメラワークと作画が魅せる鮮やかな映像だったけど、個人的には天と地がひっくり返るような(『マインドゲーム』の終盤のような)湯浅監督のドラッグムービーが見たかったなあと思わなくもない。もちろんそれをしてしまうと今までのバランスを崩してしまうわけで、ありえない話ではあるんだけど。
○カメラワークとか
・最初のダンボールに挟まれるひな子のカット。ひな子のがに股でまず笑うけど、広角気味なことに加えてダンボールがセル描きなので映像の密度がすごい。湯浅監督の『四畳半神話大系』でも思ったけど、狭い空間を広い画角で見せて、密度によって狭さを強調させるの、すごく良い。
・洋子がカフェで聞き耳を立てるカットがすごかった。洋子の瞳のクローズアップから徐々に顔の部位が増えてきて、顔の輪郭が見えてきて、全体像が見えてくる。体を複雑にのけぞって上を見ていることを活かしてスケール感を作っていくのが上手い。
○その他
・山葵がひな子に告白するところが一番好きなシーン。山葵が持っている花束がセリフとともに前後するのが山葵の複雑な心情と重なる。
・体のラインを影色で見せる透け表現が印象的。服の皺で透けを強調させたり、肌色を付けて透けの表現をすることもできるんだろうけど、そうすると下品というか、性的な表現になりがち。影色だけだから強調されることもないし、明るいパステルチックな服の色もあって凄く爽やかな、透明感に繋がるような表現だった。