劇場公開日 2019年3月1日

  • 予告編を見る

「戦時下ではない「火垂るの墓」」岬の兄妹 シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0戦時下ではない「火垂るの墓」

2021年1月16日
PCから投稿

見逃していた作品で、ネット配信で見つけやっと鑑賞出来ました。噂に違わぬインパクトのある作品でしたね。
鑑賞後イ・チャンドン監督の「オアシス」などを思い出したが、鑑賞中は「火垂るの墓」の方を強く思い出していた。
しかし「火垂るの墓」は戦争が引き起こした悲劇ということで、観客はその悲劇を戦争のせいにして観ていたが、本作は現在社会であるだけにこの悲惨さを戦争のせいにすることは出来ないし、今現実にある問題として考えなければならないように観客に仕向けていた。

こういう作品のレビューを読んでいると必ずと言っていいほど「何故、この主人公達は社会保障を受けていないのか?」とか「登場人物達はバカばかりなのか?」といった内容の書き込みがあるが、恐らくこの作品はそういう書き込みをする顔の見えない人達を糾弾する意味合いも込めて作られている様にも感じられ「そういうお前は、俺達を助けてくれるのか!!」と刃を向け、まさに今のSNS社会的風潮である、無責任、無関心、無自覚による客観性の欠如に対する怒りの様なものが作品から迸っていました。
当然今の社会なら社会保障はあるでしょうが、これに似たようなケースのニュースが現実的に起きているのも事実であり、それが起こる根本的な原因は何かという部分を観客はもっと考えなければならないのですよ。

誰だって一度は役所などに行って不親切・不手際な対応での不愉快な思いをしたことがあるでしょう。こういうのを一般的には“お役所仕事”という風に呼ばれていますが、一般的に“お役所仕事”というのは、声の大きい人(力を押し出せる人)と声の小さな人とでは優先順位がどちらが高くなるかは明らかでしょう。
本来この物語の様なケースの人達を具体的に援助できるのはそういうお役所の人達なのですが、近隣・縁者・友人等々の助けがない場合は決して其処までには届かないというのが現状であり、我々一般庶民である隣人達は、極力この様な人種との関りを避けたいというのが本音であって、無責任に「そこまで堕ちる前にもっと頭を使え」などと上から馬鹿にするのが現実社会であり、そこにこそ問題の深刻さがあるのでしょう。
この作品の凄いのは、その最下層の悲惨さに於いても(間違っているかも知れないが)生きる力も愛情もあることを示し、人間の持つ強さやしぶとさまで感じられるという点にあり、綺麗ごとと無責任が表裏一体の現在社会に対して「偉そうに言うな!!」こういう目を背けたくなるような悲惨さ・惨めさの中にある自分達の生き様を直視しろ!!」と叫んでいる様に思えた作品でした。

シューテツ