「「僕のことなんか構うなよ どっか行っちゃえ」」メモリーズ・オブ・サマー いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
「僕のことなんか構うなよ どっか行っちゃえ」
ポーランド版『是枝作品』との印象を持ってしまったのは自分だけだろうか。一夏の少年のジュブナイルな作品である。年齢的には13~15歳という感じを受けたが、劇中には一切年齢のことを想起させるものが描かれていないので勝手に想像してみた。
そんな少年が夏休み中に起こった出来事を少年の目線や、極近い範囲のアングルで描かれる映像である。なのでアップも多用しているし、あくまでも少年に寄り添った視点を貫いている。ストーリーのテンポが速いので余計な心象カットも少なく、ストレスは感じずに鑑賞できる良作である。単身赴任で母子2人だけで暮らす環境からの母親の浮気、プールで知り合った親しくも無い男の子の溺死・・・とみせかけての実は後半生きていた事が唐突に分り、喜びもつかの間、その男の子の父親が実は母の浮気相手だということが分ってしまう振れ幅の広さ、近くに里帰りなのか急に現れた女の子との淡い恋心からの、自分の母親と同じような行動をすることで、女性の見方に戸惑いを覚えてしまう件、そして出張先から一時帰省した父親に浮気がばれてしまう修羅場。単純にクズ母と言ってしまえば簡単だが、そんな弱い母親だからこそ、愛憎がより深く心情を揺さぶる演出として上手に機能している。決してドラマティックに派手な演出はないが、その手に取るような心の機微を丁寧に描いているところに、監督の手腕の高さを窺える。男は単純で女はズルイ。そんな表面的な決めつけでも、少年にとっては自分の無力さを完膚無きまでに思い知られる、ショッパイ夏休みだったに違いない。そしてアバンタイトルでの踏切に残って自殺を意識させる少年の態度からの、ラストでその続きを繫げる構成も上手だ。母親、そして女の子と一緒に訪れた秘密の入り江っぽい、隠れた池からの帰りの線路端の道路での汽車の汽笛に負けない位の雄叫び、そしてその汽車に轢かれようとなるも、実はその手前で止まっていたので、ギリギリ轢かれていない。それは、母親に対するささやかな復讐なのか、それともちっぽけで無力な自分への罰だったのだろうか、多彩な想像を掻立てられる仕上がりとなっている。とかくポーランドとなるとどうしても第二次世界大戦中の過酷な状況、そして戦後の東西冷戦といった暗い影を帯びた印象を持ってしまうが、今作品の時代背景が何時なのか不明とはいえ、こういう世界観でのジュブナイルが描かれることに、いっそうの親近感を覚える内容であった。子鹿を出現させる演出や、ガキ大将的な年長の男の不気味な佇まい、何と言っても母親の脆弱な精神、大人になれない幼稚性を表現しつつの、それでも憎めない可愛さを纏った演技に感嘆を覚える出来であった。