「さらば銀幕のレッドフォード」さらば愛しきアウトロー ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)
さらば銀幕のレッドフォード
銀幕スターという言葉はもはや死語だと思っていたが、それが思い込みであったことに気づかされる。80歳を過ぎていてもレッドフォードの所作やセリフからは、色気やカッコよさが滲み出る。アラン・ドロンやオードリー・ペップバーンがそうであったように、演技やルックスだけではなく、その俳優本人にしかない、そして我々の手に届かない魅力をスクリーンに刻む者こそが銀幕スターであることを改めて思い知らされた。
80年代に実在した74歳の銀行強盗フォレスト・タッカーの半生に基づく物語であるものの、やはり『明日に向かって撃て』や『スティング』でレッドフォードが演じたキャラクターがそのまま年老いたように見えてしまうのも微笑ましい。ヒロインにシシー・スペイセクを配役したところもまた巧い。年の離れた若い女性ではなく、年相応の相手を口説き落としていく男の魅力。私も男でありながら、始終レッドフォードに釘付けになるほど魅了させられた。
レッドフォードの俳優引退作と謳った作品であるが故に自らメガホンを取ることもできたであろう。しかし、監督をデヴィッド・ロウリーに託したのはアメリカン・ニューシネマの灯火を若手監督に受け継ぎたかったのではないだろうか。予告編(そしてヒロインからも)から『地獄の逃避行』のような展開を想像したが、そんな結末は彼の引退作には似合わない。
ー楽に生きたいんじゃない、楽しく生きたんだー、カッコいいとはこういうこと、俳優とはこういうもの、そして、これこそが自分の俳優人生なんだと背中で語るような幕引き。スクリーンに恋をするという体験は久しくなかったが、そんな素敵な時間を与えてくれるのも銀幕スターこそなせる業。「さらば銀幕のレッドフォード!」という賞賛の声と共に心からの拍手で送り出してあげたい。