「「明日に向かって撃て!」「スティング」へのオマージュもある」さらば愛しきアウトロー Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
「明日に向かって撃て!」「スティング」へのオマージュもある
自ら引退作品と公言している、名優ロバート・レッドフォード(82歳)の最後の主演作だ。
この笑顔が見られるだけで、手放しで"最高!!"と断言してしまう、究極のファンムービーである。60年の俳優生活は、まさにアウトロー役の映画「明日に向かって撃て!」(1969)でブレイクし、本作では初老のアウトロー役で締めくくる。
本作は1980年代、アメリカ各地で銀行強盗を繰り返した実在の人物・フォレスト・タッカーの話である。強盗なのに、一度も発砲をしたことがない。暴力を振るったことがない。紳士的に振る舞いながら、颯爽と犯行を成し遂げる。
逮捕も16回されたが、脱獄・脱走も16回。笑顔で銀行強盗を続ける理由は、"楽して生きるより、楽しんで生きたいから"という独自のスタイルを貫く。タッカーを追跡した捜査官さえも魅了した、不思議な犯罪者である。
映画冒頭のクレジット。"THIS STORY IS, ALSO, MOSTLY TRUE."(これもまた、ほとんど真実の物語です。)・・・もう嬉しくて笑いが止まらない。
これは同じく銀行強盗の最後を描いた「明日に向かって撃て!」(1969)の、冒頭クレジット"MOST OF WHAT FOLLOWS IS TRUE."(ほとんど真実の話です。)を踏まえた、"引用"である。
さらに終盤、フォレスト逮捕後の病院シーン。ジョン刑事がドル紙幣を返し、鼻に指を当ててサインを送るのは、アカデミー賞作品の「スティング」(1973)へのオマージュである。主人公は実在の人物名"タッカー"であるが、「スティング」の詐欺師役は、"フッカー"だった。
暴力ではロネガンに勝てないフッカーも、先輩ゴンドーフとともに"頭で"勝負したアウトロー。偶然とはいえ、名前の発音が似ていて面白い。
さて共演者たちも、ロバート・レッドフォードが選んだとも考えられる名優揃い。
主人公のタッカーを追う刑事役はケイシー・アフレック(2016年のアカデミー主演男優賞)。また、犯罪者と分かりながらタッカーと恋人関係になる女性役にシシー・スペイセク(1980年のアカデミー主演女優賞)。強盗仲間にトム・ウェイツ(ミュージシャン&俳優)とダニー・グローバーという唸るような布陣。
監督は「セインツ -約束の果て-」(2013)や「A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー」(2017)のデビッド・ロウリー。
俳優引退作品とはいうものの、米国での公開順では(カメオ的ではあるが)、「アベンジャーズ/エンドゲーム」(2019)が"最後"になった。それに監督業は続けるというので、まだ監督作品での脇役復帰は期待できるかも。
ロバート・レッドフォードの最後の勇姿は爽やかで、俳優という仕事に人生を捧げたレッドフォードと、アウトローながら同じく人生を楽しみ尽くした主人公の人生観が重なってくる。
(2019/7/13/TOHOシネマズシャンテ/シネスコ/字幕:齋藤敦子)