「田舎に住む若者にとって夢の実現のハードルは非常に高かった、インターネット以前は。」ヘヴィ・トリップ 俺たち崖っぷち北欧メタル! 鉄猫さんの映画レビュー(感想・評価)
田舎に住む若者にとって夢の実現のハードルは非常に高かった、インターネット以前は。
夢を実現するには結局スポーツであれ何であれコンペティションに勝たなければなりません。学問なら入試、スポーツなら甲子園、インターハイとか、漫画なら少年誌の新人賞、漫才ならMー1とかとかありますけど音楽なら何でしょう?渋谷のライブハウスで評判になってスカウトされたとか新宿ルミネ前で弾き語りしてたらスカウトされたとかあるんでしょうがそんなものは大都会の話、田舎にライブハウスなんかないし第三セクターの無人駅で弾き語ったところで長距離通勤で疲れたおじさんに見向きもされません。田舎に住む若者は全国規模のコンペティションに勝つしかない、とりあえず目標となるハードルは非常に高い訳です。
コンペティションに勝つために才能と努力を原資にして必要な「情熱」と「アイデア」、そして「運」を獲得せねばなりません。何にでも成れるはずの中二の万能感、根拠のない自信はあっても、インターネットで情報が溢れかえる前の時代には田舎に住んでいるとまず最初に乗り越えるべきハードルが何かわからない、どこにあるかわからない、知っている人も廻りに居ない、結局のところ本を頼りに独学で鍛錬するしかありません。
私は田舎から就職で上京して埼玉東京にン十年住んでいましたが、東京はやっぱりお金持ちが多いし本格的な何かを体験できる場所へ電車でスグ行ける、“とにかく明るい安村“さんじゃなけいけど「東京ってスゴイ」、田舎とはスタートが一段も二段も三段も違うと感じました。都会に住む若者には田舎に住む夢を追う者の焦燥感とかわからないんだろうなあと思います。それでもインターネットの普及でずいぶん様変わりして情報収集や備品購買や作品発表に関して全国的に平準化されたと思います。スバラしい!
メタル大国フィンランドの若者がデスメタルにかぶれ、田舎では珍妙なカッコと揶揄されながらもバンド練習を12年も続ける<情熱>を持ち、進歩の無い活動から脱却するため“発明“した「屠殺場のリフ」やオービスで撮影した宣材写真などの<アイデア>、イベントプロデューサーと出会う<運>が揃って「7・7・7」の“フィーバー“です。情熱・アイデア・運が揃って生まれた大きなチャンスを逃すまいと夢の実現にためにしがみつく主人公達の姿に、田舎で悶々としていた昔の若い自分が踏み出せなかった一歩が重なり感情移入して凄く感動してしまって、大いに笑えるコメディなのに涙がポロポロ出てきたんです。これはデスメタル版「ロッキー」だわ、と。私にとってはとても感動的な作品でした。
音楽コンペティションと言えば昔ヤマハのポピュラーソングコンテスト(通称ポプコン)がありました。そこで発見された“史上最大の才能“は中島みゆきさんだと信じています。“不動の愛“とか“運命“とか今や「宇宙の真理」について唄っているんじゃないかとすら思わせる圧倒的な才能と努力、彼女も北の国北海道出身ですね。彼女でも歌手になれるかどうか不安になるような事やチャンスを逃したくないという焦燥感を感じるような事があったのかしらと思います。1975年のデビュー曲「アザミ嬢のララバイ」は若い時に聞いても何とも思いませんでしたが、孤独な夜を乗り越えて歳とった後に聞くと心に沁みますね。歌は時代を超えてきます。
運は良い時もあれば悪い時もある、才能や努力を情熱やアイデアとして行動や形にして経験を積み上げていれば、それが心の支えになり運が悪い時でも耐え凌げたり行き詰まった時にアザミ嬢から声がかかるかも知れませんね。