劇場公開日 2019年8月24日

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「地政学的な力関係がさり気なく描かれる」ディリリとパリの時間旅行 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0地政学的な力関係がさり気なく描かれる

2019年9月4日
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鑑賞方法:映画館

 ガスライターで有名なDupon社は、日本だとデュポンと表記され発音されることが多いが、フランス語の発音はほぼジュポンである。本作品のヒロインであるDililiは映画を観ればすぐに解るが、ディリリよりもジリリに近い。どうも日本では発音よりもスペルを重んじる傾向があるようだ。
 さてジリリはニューカレドニア出身でフランス語が堪能な推定10歳の有色人種の女の子だ。現地では肌の色が薄いからと差別され、フランスでは肌の色が濃いと差別される。しかし文化人たちはジリリの肌の色を個性として受け入れ、寧ろ褒める。

 本作品は、自分を卑下せず社会と積極的に関わろうとする女の子の勇気を描く。登場する有名人は画家、科学者、彫刻家、皇太子、女優、歌手、作曲家、それに小説家など、とても豪華である。
 文化は常に善であり、不自由や束縛と戦わなければならない。二十世紀初頭のパリは、文化人たちの熱気に噎せ返るようである。そんなふうな熱に煽られたかのようにジリリは大活躍する。
 マジカルな奇跡は起きないし、冒険も地味で日常的ではあるが、どこかワクワクする。権力の腐敗や地政学的な力関係もさり気なく描かれていて、ディズニーは勿論、日本のアニメとも一線を画す芸術的な娯楽作に仕上がっている。兎に角観ていて楽しい作品だ。

耶馬英彦