「焦るなって!!落ち着けって!!」Girl ガール ウシダトモユキ(無人島キネマ)さんの映画レビュー(感想・評価)
焦るなって!!落ち着けって!!
近年観た中でトップクラスのキツさ!!
「キツイ」って言っても、「ダメ!」とか「キライ!」とか「残酷!」という意味でのキツさではもちろんないの。言うたら「痛い」。とにかく心が痛いし、心以外も痛い。
「痛い」と言えば、今回はっきりと認識したんだけど、僕はバレエの映画がニガテだということがわかった。爪先でビョンビョン跳ぶの、足グネりそうで怖くて見てられないし、「足の指付近をケガする場面」なんか、僕にとっては手や顔をケガする場面より5割増しで痛い。なぜかはよくわからないけど。
「心が痛い」という面では、この作品がLGBTQを扱った映画なので、「偏見とか差別とかに心を痛ませながらも、最後は自分なりの生き方に折り合いをつける姿に感動する」みたいな展開を勝手に予想していたんだけど、むしろそれとは逆なのがスゴい。
家族も、学校も、カウンセラも、性転換手術を前提にホルモン治療とかを担当する医師も、みんなそれぞれに主人公のトランスジェンダーを受け入れて応援してるのがスゴいんだ。だから主人公がトランスジェンダーであることの苦悩や葛藤が、全部主人公自身の内面に向かってしまう。これがキツイ。
これで主人公がクサったりヤケになったりしていけば、観客にとっては逆に救い(?)になるような気もするんだけど、この主人公はまぁ、頑張っちゃう。弟の善き姉として、バレエを目指す若者として、バレエを目指す仲間たちの友達として、そして恋をする女の子として、とにかく無理しちゃう。
それをカメラは淡々と映す。時に見せすぎなほど、淡々と映す。それはそれはツライ。主人公も周りの人たちも、誰も悪くない。観客は傍観者として「こうしたらええやん。」という道筋が見出だせない。
だから僕は、主人公が冷凍庫から氷を取り出したとき、その後主人公が何をするか、スッとわかった。それはたぶん僕が勘がよかったとかいうことではなく、それまで観客の心の中に「どうしようもなさ」の伏線をしっかり積み重ねていたからなんだと思う。スゴい。
「焦るなって!!落ち着けって!!」って思考は歳を重ねたからできることで、主人公は若すぎるから、どうしたって届かない。それもわかるからツラかった。
そんな作品の、作劇や演出もさることながら、主人公を演じたビクトール・ポルスターの演技というか、作り込みというかもむちゃくちゃスゴい。
決してふざけて言うわけではなく、ちんこが付いてる少女にしか見えない。
「俳優が少女になりたい少年を上手に演じている」ってレベルじゃなくて、本当に「ちんこが付いて生まれてきちゃった女の子」にしか見えないの。このことが、この作品の強烈な説得力になってると思う。
そんなこんなで、LGBTQを扱った映画の中でも群を抜いて深いところを描き出している作品だと思うし、思春期の焦りやどうしようもなさを感じさせる傑作だと思う。
同じ年頃の娘を持つ父親である僕にはキツすぎて、好きになれないのが申し訳ないけど、素晴らしい映画だと思う。オススメしたい。