「ピエールの逮捕こそが、奇跡のリーチ一発!」麻雀放浪記2020 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
ピエールの逮捕こそが、奇跡のリーチ一発!
戦後日本のバクチ打ちの非常識が現代に蘇るとどうなるか? 現代にも非常識な奴はいっぱいいるじゃないか!という映画。
ピエール瀧の逮捕こそが、奇跡のリーチ一発!
なにしろピエール瀧の出演シーンなんて、前後関係なくカットできる。"撮り直し"で悩む必要もないし、ましてや"公開が危ぶまれる"なんてことはまったくない。降って湧いた大プロモーションで、むしろこの映画の仕上げだったりする(笑)。
一事が万事。それほどぶっ飛んでいる作品なのだ。
いちおう「麻雀放浪記」(1984)の翻案SFということになっているが、主人公の"坊や哲"(斎藤工)が1945年から2020年にタイムスリップしてくるだけのパロディである。阿佐田哲也の原作を引き継いでいるのは、その精神性だけかもしれない。白石和彌監督の悪ノリ全開のシュールレアリズム・コメディといったほうが正しい。
映画では2020年の東京オリンピックが中止になっているが、その理由が直前に起きた戦争という設定。戦争と背中合わせである世界情勢と日本も無関係ではないこと、東京オリンピックも中止になってしまえ!というブラックジョーク。
劇中では、"ふんどしシャブシャブ"が出てきたり、"賭博の謝罪会見"があったり、"謝罪"つながりでベッキー、元東京都知事役で舛添要一も本人役で出演する。
映画としてもアバンギャルドで、全編をiPhone撮影でこなす。もちろんデジタル6.5K作品とは比べるべくもないが、この程度の画質の映画は山ほどある。部分的に解像度がもの足りなく感じるのは、iPhoneだと知っているからかもしれない。
いまやレンズ交換式デジカメとスマホカメラのSPEC差は、ほとんどない。プロ独自のテクニックでさえ、AIがサポートしてくれる。
そんな今を揶揄するかのようにAI雀士が登場する。AIがあらゆる専門職を乗っ取ってしまう近未来を描いている。
またモチーフとして昭和映画や近未来SF映画、ヤクザ映画、ピンク映画などをB級ノリで使いまくっている。
実験的映画といえば褒めすぎ。"旬"を楽しむ映画である。ギャグには現在性しかなく、劇場上映で笑い飛ばすのが正しい。パッケージや配信になって見るような普遍性などあろうはずもない。それ自体が近未来だし。
(2019/4/6/TOHOシネマズ上野/シネスコ)